表題番号:1996A-299 日付:2002/02/25
研究課題東南アジア島嶼部における漁撈文化複合の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 矢野 敬生
研究成果概要
 報告者が1970年代後半に行ったインドネシア東部ジャワのイスラム系漁村(1975~)と、1991年以来フィリピン西ビサヤ諸島のパナイーヒリガイノン語系(キリスト教)の漁村を対象とした文化人類学調査の資料をもとに、生業としての漁撈活動を通して両地域の村落生活の構造と変化についての分析作業を実施した。東南アジア島嶼部は水産資源に恵まれ、近年における大・中規模の沖合漁業の展開の裏舞台にあって、多様な海底地形と漁獲対象魚類に応じた伝統的漁業活動が依然として盛んに展開している。
 本研究では、まずこうした沿岸エコシステムとこれの対応した多様な漁業技術をふまえ(拙稿1994“The Characteristics of Fisherfolk Culture in Panay:From the Viewpoint of Fishing Ground Exploitation”(pp3-51)U shijima.I&Zayas.C.N eds.Fishers of the Visayas,University of Philippines Press)、漁撈技術の史的展開について分析を行なった(拙稿1996“Small-Scale Fishing in the Muddy-Tidal Area of Capiz, Central Philippines”Ushijima,I&Zayas, C.N.eds.Binisaya nga Kinabuhi,Visayan Life,CSSP Publication, Philippines)。また一方で定置網を所有しない漁業労働者世帯にとって、浅海域に展開される多様な漁撈活動が、ことにsubsistence水準における重要な生計戦略になっていることを指摘した(近刊予定)。このことは東南アジア島嶼部を理解する上で、海が生業と交通の要であり、陸地中心主義の視点からは理解できない生態学的・社会的条件がここには存在することを意味する。こうしたことから東南アジア島嶼部研究にとって、漁民的視野を取り込むことはきわめて重要であるという認識を強く持っている。
 また、こうした分析作業と並行して東南アジア島嶼部内における海洋人類学的文献資料の収集および文献目録を作成中である。