表題番号:1996A-297 日付:2002/02/25
研究課題口形の変化で伝えられる音声言語の情報の文脈依存性の解析に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 比企 静雄
研究成果概要
 音声の発話に伴って唇が動いて口形が変化するが、これから音韻を視覚を通して推定する読唇(音声言語を理解するという広い意味で読話)は、聴覚に障害がある場合だけでなく、通常の音声の聴取の場面でも無意識に活用されていて、音声言語の情報の伝達に重要な役割をもっている。
 しかし、この口形の変化には、音声言語の情報の一部分だけしか表れないので、言語によって音韻体系が違うと、音韻の種類の推定の可能性が違ってくるし、言語の統計的な性質が違うと、音声言語の理解の可能性が違ってくる。さらに、これらの可能性は、言語の種々なレベルでの文脈にも大きく依存している。
 そこでこの研究では、このような口形の変化で伝えられる音声言語の情報の、とくに文脈依存性について、次の2つの面から解析した。
 1. 先行または後続する音韻の影響による口形の変化の修正規則
 先行または後続する音韻の影響によって、口形の変化が修正される現象を、口形の記号表記にもとづいて、どの言語にも適用できるような普遍的な規則の組合せとして導出した。
 2. 日本語の同音語の影響による読唇の情報量の減少
 同口形異音語に加えて、日本語では同音語(したがって同口形語)が異常に多く、これが読唇の情報量の減少に影響していることを、他の言語との比較のための資料として定量的に算出た。
 日本語の語彙の約35%は、同音語の組合せを持っている。1つの組合せの平均語数は2.9語であるが、口形記号の一つの連がりが多数の同音語を持っている場合も多い。2音節の口形記号の連がりが、100以上の同口形語を持っていて、そのうちの1/3位が高頻度で使われているものもある。日本語の同音語のために、語彙のエントロピは、平均では各単語当たり0.54bits減少する。この数値は、平均単語長が3~4音節であり、子音の口形記号のエントロピが、各記号当たり2.57bitsでしかないことを考慮すると、かなり大きな影響をもつことになる。