表題番号:1996A-292 日付:2002/02/25
研究課題食道壁内在NOニューロンの細胞組織学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 小室 輝昌
研究成果概要
 ヒトを含む動物の食道筋層には、胃、小腸とは異なり横紋筋線維が存在し、骨格筋と同様、神経筋結合部が観察される。従来の定説によれば、これらの横紋筋の神経支配は迷走神経運動核に直接由来するものと考えられてきたが、よく発達した内在性の筋層間神経叢ニューロンの存在理由については疑問のままのこされてきた。ところで、最近の研究によれば、その内在性ニューロンによる筋支配の可能性が示唆されているが、その候補としてNOニューロンが注目されている。NOについては、Non-adrenergic Non-chorinergic(NANC)抑制ニューロンの働きが下部消化管において推定されているが、食道においては、その存在様態についても十分に明らかにされていない。
 本研究では、食道の全長にわたるNOニューロンの分布様式、細胞組織学特徴について明らかにする事を目的として、モルモット食道を用い、Nitric oxide synthaseの証明と等価値を持つNADPH(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)-diaphorase活性の検出をする組織化学染色をおこなった。また、上記試料を電子顕微鏡用標本として作製し、微細構造レベルでのNOニューロンについても観察した。
 NADPH-d染色陽性細胞(NOニューロン)は、食道全長を通じて多数存在しており、食道上部から下部にわたって変化する筋層間神経叢の構築を反映して分布することが証明された。食道筋層間神経叢は全体として疎で不規則な網目構造を呈するが、上部では神経節策と結合策との境界が不分明なほどNOニューロンは散在するのに対し、下部では神経節策内に限局して密集する。又、運動性と推定されているDogiel1型の細胞も多数みとめられた。電子顕微鏡による観察では、NOニューロンは、細胞質内の粗面小胞体、核膜に NADPH-d陽性反応を示す細胞として観察され、反応陰性の幾つかのタイプの軸策終末のシナップスを受ける一方、神経節内ではシナップス前構造としての明瞭な像を示さない。また筋層内には、内在性と推定される反応陽性の無髄神経線維束が多数認められた。これらの観察をもとに、食道筋層間神経叢のNOニューロンの生理的意義について考察した。