表題番号:1996A-290 日付:2002/02/25
研究課題鳥類筋原細胞の初代培養のための無血清培養液の開発ⅠⅠ
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 木村 一郎
研究成果概要
 1995年度の研究によって、ニワトリ及びウズラの筋原細胞の培養において、ゼラチンを塗布した培養皿中で培養した場合、ダルベッコ変法イーグル最少必須培養液を基礎人工培養液とし、ニワトリトランスフェリンを30ug/ml、ウシインスリンを10ug/ml、ウシ血清アルブミンを1mg/ml、ヒト線維芽細胞成長因子(FGF)-2を10ng/ml加えた無血清培養液(DTIBF)が、一般に鳥類筋原細胞の初代培養に使用される15%馬血清を含む培養液に匹敵する増殖・分化を促進する活性を持っていること、さらにこの無血清培養液系では、初代培養に夾雑を避けられない線維芽細胞の増殖が筋芽細胞に比べて著しく低いことが示された。これらの結果は筋発生研究においてきわめて有効な実験系である初代筋原細胞を無血清系で培養したいという発生生物学者の夢の実現に道を拓くものである。本年度は細胞外マトリクス物質などの効果を調べ、上記の無血清培養液をさらに改善することを試みた。
 先ず、いくつかの細胞外マトリクス物質を培養皿に塗布した場合の効果を調べた。Ⅰ型コラーゲン(ラット)、IV型コラーゲン(マウス)、ラミニン(マウス)、フィブロネクチン(ヒト)はいずれもゼラチン塗布の場合に比べると筋分化が促進されたが、その程度は僅かであった。しかし、これらを培養液中に加えた場合、他の3者がそれほど大きな促進作用を示さなかったのに対して、フィブロネクチンは分化を大きく促進した。このフィブロネクチン添加による筋分化促進は、培養皿に予めゼラチンを塗布しておくか否かに関係なく見られた、またこの促進効果はフィブロネクチンの細胞結合部位であるRGD(Arg-Gly-Asp)配列を含むRGD-Ser 合成ポリマー(RGDS)によって競争的に阻害された。
 以上の結果から、現時点ではコスト等をも配慮して、上記DTIBF無血清培養液に10ug/mlフィブロネクチンを加えたものが鳥類筋原細胞の培養にきわめて適していると判断した。