表題番号:1996A-261 日付:2002/02/25
研究課題R-L-Diode回路のカオス同期:Secure通信への応用可能性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 松本 隆
研究成果概要
 1990年、米国の物理学者PecoraとCarroll{Pecora and Carroll,Phys.Rev.Lett.64,p821}はchaoticな系を部分系に分割し、分割された部分系が、もとのchaoticな系と同期(synchronize)する条件を調べた。これをもとに、1993年米国の電気工学者Cuomo Oppenheim{Cuomo and Oppenheim,Phys.Rev.Lett,71,p.65}は、Lorenz方程式をアナログ回路で組み、chaoticな状態を作り出しておき、それにアナログ又はディジタル信号をencodeして信号を送り、受信側でchaotic synchronizationによってdecodeする実験を行い注目されている。伝送される信号はchaoticなので、たとえ盗聴者があっても、対応するLorenz方程式を実現する回路とそのパラメータを知らなければdecodeする事な不可能である。勿論、膨大な計算時間を費やせば、系の同定は不可能ではないが、比較的短時間のsecure通信のためには十分安全であると言えよう。このアイデアは未だ全く初期的段階であるが、考え方としては非常に面白いものが含まれている。
 本研究の目的は本申請者が長年調べてきた単純なchaotic回路(RL Diode回路)を用いてchaotic synchronizationとそのsecure通信への応用の可能性を探る事である。
 この回路はLorenz方程式を実現する回路に比べて圧倒的に単純であり本格的implemetationの際決定的なfactorとなり得よう。また、Lorenz回路は所謂自律系であるのに対して、R-L-Diode回路は非自律系である事もLorentz系の場合とは異なる側面の一つである。前年度までに次の結果を得ている:
 1.Pecora-Carrolカオス同期の実験的観測。
 2.理論的結果による実験の検証。
 3.Chaotic Maskingの実験により音楽波形の復元。今年度は次の課題を解決した。
 4.受信側で独立電圧源に関する位相情報がない場合についてもPLLとフィルタを用いてPecora-Carrol同期を実験的に確認した。
 5.対象としているR-L-Diode回路の大域分岐を解明し、カオス同期現象を調べる基礎を与えた。