表題番号:1996A-260
日付:2004/11/07
研究課題相対論的力学系としての連星パルサーと重力波
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学部 | 教授 | 前田 恵一 |
- 研究成果概要
- Hulse とTaylor の発見した連星パルサーによってその存在が明らかにされた重力波を直接観測しようと、LIGOを初めとする重力波干渉計の大型プロジェクトも着々と進み、21世紀初めには最初の重力波観測も夢ではなくなった。重力波は従来の電磁波や新しい観測手段のニュートリノでは観測できない星の最終段階や宇宙初期などを見る第3の目として期待されている。もし、その重力波を使った天文学が現実のものとなれば、天文学的重要性に加えて、物理学の基本的な問題にまで迫りうる重力波天文学が可能になる。特に、連星パルサーの合体は重力波源としても有望で、そのテンプレート制作は重力波天文学の理論的最重要課題で、世界各地で研究が続いている。
ところで、天体を記述する天体力学に関しては、ニュートン重力理論を基礎にした研究が非常に活発で、先駆的なポアンカレによる三体問題の研究はもちろん、最近ではコンピュータを使ったより定量的な解析が進み、そのような力学系を非線形物理学の一つの分野として議論するようになってきている。一方、連星パルサーの合体などで重要となるアインシュタインの重力理論は、複雑な非線形偏微分方程式で重力場自身も非線形となるので、ニュートン理論では現れない新しいタイプの非線形現象も期待できるが、その研究はこれまでほとんどなされていない。そのような非線形現象、特にカオスなどは連星パルサーの運動に大きな影響を与え、上記の重力波テンプレート作りの重要な要素となる可能性がある。そこで、本研究では連星パルサーの合体などの相対論的天体力学を念頭に置き、相対論的力学系における非線形現象について詳細に調べ、それが重力波観測計画に与える影響について考察した。その結果、どのような状況で連星パルサーの合体などから放出される重力波において、カオスなどの非線形現象が重要となるのかを明らかにした。また、本研究により、重力系における非線形現象の重要性を明らかにし、相対論的宇宙物理学に相対論的力学系という新しい分野が開拓できたものと思う。