表題番号:1996A-254 日付:2002/02/25
研究課題中性子非弾性散乱による合金のスピノーダル分解の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 角田 頼彦
研究成果概要
 合金のスピノーダル分解では、その初期に構成原子の濃度が空間的に長周期の波を形成する。 この時、構成原子の質量に大きな差があると、試料中に質量の密度の波が生じることになる。 この様な質量密度波を持つ系を伝播する格子振動の波は、その波長が質量密度波の波長に比べて長い場合と短い場合で様子が異なるであろう。従って格子振動の分散関係に異常が期待される。 この異常を詳しく解析することで、格子振動の分散関係からスピノーダル分解についての新しい情報を得られる可能性がある。
 このような目的で、典型的なスピノーダル系であるAlZn合金の格子振動の分散関係を中性子非弾性散乱を用いて測定した。 Al85Zn15合金(質量比 2.0)は室温でスピノーダル分解を起こし、周期 約 35Aの濃度波が生じる事が知られている。従って、室温の時効時間によって質量密度波の振幅が変化し、分散関係に時間に依存する異常が期待される。 中性子散乱の結果は、波長 50 A付近に分散関係に不連続を示す異常が観測され、この付近でエネルギーギャップが生じている事を示している。またこの異常が時間とともに顕著になっていることから質量密度波によるものであると考えられる。
 一方、質量密度波を持つ一次元系でコンピューターシミュレイションをおこなったところ、質量密度波の波数ベクトルの半分の位置に、エネルギーギャップが生じる事がわかった。この値は実験で得られた位置と少しずれている。 これは計算では原子間結合力(ばね定数)を一定にして計算しているのにたいし、現実の系ではこれが異なるためであると考えられる。 現在のところ、観測されている異常はやや小さく、このデータからスピノーダル分解についての新しい情報をえるにはもっと現実に近い系でのコンピューターシミュレイションによる解析が必要である。