表題番号:1996A-252
日付:2002/02/25
研究課題C1-単位転移に関与するコバルト・ニッケル錯体補酵素のモデル化
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学部 | 教授 | 多田 愈 |
- 研究成果概要
- メタン発酵過程におけるメチル-補酵素Mの生成や、多くの生物群に見られる普遍的メチル基源 としてのメチオニン生成過程において、葉酸やメタノプリテリンの5位の窒素に結合したメチル基がコバルト錯体である補酵素B12の関与のもとに補酵素-Mやホモシステインに転移する。この転移反応をモデル化すべく、テトラヒドロプテリン類やアニリン類のメチル誘導体にアルキルチオーコバルト錯体を反応させた。その結果、メチル基は効果よく窒素からイオウ上に転移した。この際、チオールコバルト錯体としてパラ置換フェルチオコバオキシムを用いてい研究し、その酸化電位やX-線構造解析と反応性との関連を検討し、コバルト錯体からメチルアンモニウムイオンへの電子移動反応とそれに続くラジカル的分子置換反応が起こっていることを明らかにした。
メタン菌によるメタン発生過程では、上に記したN→S転移に続いてメチル基はさらにニッケル錯体であるF430に転移してメタンを発生すると考えられている。その際、メチル化補酵素-Mはメチル基を失って、さらにもう一つの補因子である(HTP)SHと反応して(補酵素M)S-S-(HTP)の混合ヂスルフィドを生成する。この過程をモデル化すべく、チオアニソールとトリルチオーニッケル錯体の混合物を光分解してトリルチオラジカルを発生させたところ、(フェニル)S-S(トリル)の混合ジスルフィドの生成とともにメタンの発生が認められた。
このように、反応機構的に全く未知の生化学反応に有機化学の面から新しい可能性を示唆する知見を得ることができた。この成果は生化学反応を規範として新しい有機化学反応を発見するという本研究の目的を充分に達成したものといえる。