表題番号:1996A-251 日付:2002/02/25
研究課題生理活性物質および薬の光化学・時間分解ラマン分光法による研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 高橋 博彰
研究成果概要
 1.クロルプロマジン (CPZ)は精神病治療における重要な薬である。この薬は作用機作および光毒性・光アレルギー性の副作用の機構を明らかにするために、時間分解ラマン分光法およびレーザーフラッシュフォトリシス法のより研究を行い以下のことを明らかにした。
 (1)ラジカルカチオンはS1経由の二光子過程で生成する。(2)カチオンラジカルから過渡分子種Xが生成し、Xは更に過渡分子種Yに変化する。(3)Xは光誘起脱塩素化反応により生じたプロマジニルラジカルの可能性が高く、CPZの副作用に関係している可能性がある。
 2.ニコチンアミドアデニンダイヌクレオチド(NADH)は補酵素として、生体内の多くの酸化還元反応において重要な働きをしている。NADHの光科学反応を時間分解ラマン分光法およびレーザーフラッシュフォトリシス法により研究し以下のことを明らかにした。
 (1)NADHがNAD+に二電子酸化される過程は、これまでハイドライドイオンH-の移動によるとされてきたが、光化学反応では先ず電子移動が起こってラジカルイオンNADH+・が生成し、これがプロトンH+移動を起こしてラジカルNADを生成し、更に、電子移動を起こして最終的にNAD+になる。(2)NADH+・はS1経由の二光子イオン化により生成する。3.α-ターチエニル(αT)はマリーゴールドなどの植物中に存在し、蚊の幼生などの生育を阻害する働きをする。αTの光反応を時間分解ラマン分光法およびレーザーフラッシュフォトリシス法により研究し以下のことを明らかにした。(1)ラジカルカチオンは二光子イオン化によりS1経由で生成する。(2)アセトニトリル中ではイオン化エネルギーがメタノール中よりかなり小さく、ポンプ光のパワーが低くても光イオン化が起こる。(3)S1状態ではチオフェン基内のC=C結合はほとんど弱まっていないのに対し、T1状態およびラジカルカチオン状態ではC=C結合が少し弱まっている。(4)T1状態の収率が高く、遅延蛍光が観測される。