表題番号:1996A-240 日付:2002/02/25
研究課題筋タンパク質分子間相互作用の一分子くり返し顕微計測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 石渡 信一
研究成果概要
 1個の筋タンパク質ミオシン分子モーターとその基質フィラメントである一本のアクチンフィラメントとの相互作用(結合の破断力や、結合の寿命)を同じ分子について光学顕微鏡下でくり返し計測した。結合が最も安定であると考えられる硬直結合(ATP非存在下)について計測したところ、平均約10pN(ピコニュートン)の、幅広い分布を示した。一方結合の寿命τ(F)は、無負荷(F=0)で約2000秒(=τ(0))であったが、負荷(F)を加えるとτ(F)=τ(O)exp(-Fd/kT)の形で、負荷に応じて急激に減衰した。ここに、dはタンパク質分子間の相互作用距離、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。ところがミオシン分子モーターの活性部位(頭部とよぶ)を1個しか持たない酵素活性断片(S1とよぶ)について同じ特性を調べたところ、無負荷では約150秒、負荷を加えると、頭部を2個持つミオシン分子と同様の形で寿命が減衰した。共に、dは約3nmと見積もられた。破断力については、S1分子と比べてミオシン分子の方が幅広い分布を示したが、最近になって、ミオシン分子をガラス表面に吸着させる際に共存させる不活性タンパク質の添加方法を変えたところ、ピークが約7pNと約17pNの2つの山に分裂した。S1分子の破断力は、この小さい値に近いと見積もられるので、ミオシン分子で得られた破断力の分布は、単頭結合と双頭結合の重ね合わせである可能性が高い。このような結果を踏まえて、今後は単頭結合と双頭結合とを区別した上で、個々のミオシン分子の結合特性、さらには運動特性を明らかにし、化学・力学共役の素過程の解明に迫りたい。ATP存在下でミオシン分子モーターが働いている際の運動特性については、温度パルス顕微鏡法を開発したことによって、1/30秒以内に数十度の可逆的な温度パルスを局所的に与えることが可能となった。その結果、アクチンフィラメントの滑り運動の熱励起を実現することができた。