表題番号:1996A-227 日付:2002/02/25
研究課題関東山地三波川帯におけるナップ構造の復元
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 高木 秀雄
研究成果概要
 関東山地北部の雄川~鮎川上流地域の三波川帯において、その地質構造、温度構造および剪断のセンスの決定を試みた。その結果、次のようなことが明らかとなった。
 1.地質構造:本地域には、構造的下位より三波川ユニットと御荷鉾ユニットが、東西走向南傾斜の衝上断層を境にして累重する。全体に結晶片岩の片理面は南西に低角~中角で傾斜するが、中位層準では波長数10mオーダーの緩やかな正立褶曲群により傾斜方向が繰り返す。伸張線構造の方向は地域全体でほぼ一貫して西北西-東南東で、水平に近い。
 2.温度構造:三波川ユニットの温度構造は、調査地域西部では南から北に向かってざくろ石帯、緑泥石帯、ざくろ石帯、黒雲母帯、ざくろ石帯の順に分帯されるが、中部および東部では、緑泥石帯を欠いている。東部地域の黒雲母帯の南縁付近には衝上断層を境に温度構造のギャップが見い出されたが、西部地域ではその断層の延長を押さえることができていない。
 3.剪断センス:センス決定の指標として主にシアバンドを用い、付随的に曹長石斑状変晶に伴う非対称プレッシャーシャドウや白雲母フィッシュを用いた。その結果得られた剪断センス雄川ルートでは戦場以南が一部を除き上盤西であるのに対し、戦場以北では上盤東であるものが多い。一方、鮎川ルートでは、鹿島以南ではすべて西のセンスを示すが鹿島以北では東西両方のセンスが繰り返す。このように、調査地域北方では上盤東のセンスが出現し、それが出現し始める南縁境界の位置は、黒雲母帯の南縁部に相当する。
 延性剪断変形時の剪断センスがプレート収束域で一様で上盤西であったと考えられる事から、剪断センスの逆転は伸張線構造形成後の構造的逆転、すなわち横臥褶曲の存在を示す証拠になる。ただしその形態は、大規模なものではなく、小規模の横臥褶曲が繰り返しており、一部に南傾斜の衝上断層が存在することが明らかとなった。