表題番号:1996A-214 日付:2002/02/25
研究課題アイヌ民族史の研究(2)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 菊池 徹夫
研究成果概要
 アジア太平洋戦争が終ってすでに半世紀以上にもなるというのに、日本は単一民族の国家だ、というふうな話をまだ時々耳にする。それがまったくの誤りであること、いまさら言うまでもない。
 最近の考古学、歴史学、人類学、言語学など諸科学の研究成果は、日本列島に生きる日本人とその伝統文化、そして日本という国家じたいも、南方、北方それに西方からの、何波にもおよぶ人と文化の渡来によって、はじめてかたちづくられたものであることを教えてくれている。なかでも原史・古代以来、現代にいたるまでいく度となく渡来した朝鮮半島からの人々については、一応、教科書などにも書かれている。彼らは、さまざまの新文化をもたらしただけではなく、かなりの部分は列島に住み着き、また各地に移住もし、そこで先住の人々としだいに混血しつつ日本人とその文化の形成に大きな役割を果たし、日本の国家の成立じたに大きく寄与した。
 これにくらべて北辺の隣人、アイヌの人々については、彼らが少なくとも東日本の先住民の一つであり、やはり日本とその文化の形成に大きく関わったことは明らかなのに、なぜかほとんど書かれることがない。ごく最近ようやく国会において彼らの「先住性」が確認されたことは、当然のことながら喜ばしい限りである。
 現代の日本列島に生き、周辺アジアの人々と共生すべき私たちは、まず自分じしん、つまり日本人や日本文化についてよりよく知ること、そのためにはアイヌをはじめ北の隣人たち、すなわち北方少数民族について、もっと学ばなければならない。
 ところで、列島北辺、道東・北部にオホーツク文化を遺した流氷の海の漁猟・交易民、つまりオホーツク人こそは、じつはアイヌあるいはニヴヒ(ギリヤーク)の祖先ともいわれ、しかも中国や朝鮮半島とも密接な関係があり、まさにその点で興味深く重要である。
 ともかく、かつてこの列島に存在した地域文化のなかで、これほどいわばエキゾチックで特異な文化は、おそらく他に例はないであろう。共同生活のための亀甲型の大型竪穴住居、その内部にしつらえられた熊の頭骨を積み上げた祭壇、刻み目をつけたり粘土紐を貼りつける独特のオホーツク式土器、石や骨で作ったすぐれた漁具や狩猟具の数々、巧みな熊や海獣の彫刻品、神秘的な雰囲気さえたたえた牙製の女性像、奈良時代の東北地方から伝えられたと思われる蕨手刀、各種の大陸製金属製品、被葬者の頭に土器を被せ屈葬にした墓、そしてその特徴ある頭骨と、さまざまなその人種系統説・・・
 オホーツク人とは?オホーツク文化とは?
 この文化はアイヌをはじめとするその後の日本列島の住民の歴史にどんな意味を持つのか。いずれ総括的な報告を予定しているが、今回はこれら諸問題の解明に主力を注ぎ一定の成果を得た。
 このようなテーマでの研究は遠隔地での野外調査を必須とするので、本助成費の交付がなければ不可能であった。深く感謝する。