表題番号:1996A-203 日付:2002/02/25
研究課題シュルレアリスムの脱領域的展開-非活字メディアへの視線
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 教授 塚原 史
研究成果概要
 シュルレアリスム(Le surrealisme)は一九一九年に当時精神医学を専攻する学徒であった若き詩人アンドレ・ブルトン(1896-1966)が実践した自動記述の最初の試み『磁場』を出発点としていますが、一九二四年の『シュルレアリスム宣言』発表以後は、人間精神の深層の探求を言語とイメージと行動によって表現しながら、精神の解放を世界の変革と結びつけるラディカルな異議申し立ての運動となって、その後半世紀近くにわたってフランス文化の枠を越えた文字通り地球規模のひろがりを見せたのでした。
 この二十世紀最大の芸術と思想の運動は、それゆえ既成のジャンルにとられることのない自由な発展を特徴としていたわけですが、今回の私の研究はシュルレアリスムのこうした脱領域的展開な展開に注目することで、アヴァンギャルド芸術から消費社会文化にいたる今世紀の知的変容過程をひとまず確認し、ブルトンたちの経験から来るべき時代の文化の可能性を探ることを目的としていました。
 そのために、私はまず「非活字メディア」(グーテンベルク以来「文明」を支配してきた「書物」という形態にとらわれない媒体)でのシュルレアリスム(その直前のパリ・ダダもふくむ)の実践のパースペクティヴを得ることを試み、以下のような場面での資料の作成に着手しました。
 (1)手書きテクスト
 (2)パフォーマンス(催眠実験や街頭デモ等も含む)
 (3)写真(てくすと中のものも含む)
 (3)映画(シュルレアリスム的傾向のものも含む)
 (4)演劇(同上)
 (5)旅
 具体的にはこれらの諸項目にかんして、シュルレアリストたちが残した作品や資料を整理し、ディジタル機器・ヴィデオ・スライド等を利用したデータ・ベースの作成を行ったわけです。研究対象は広汎にわたるため作業はまだ完成段階にはいたっていませんが、途中経過として私が確認したことは、なによりもシュルレアリスムが西欧型近代というみずからを育んだシステムにたいする強烈な批判者であったという事実でした。この批判(クリティック)が現代文明の危機(クリーズ)の意識と結びついたことが、運動の脱領域的展開の研究からいっそうあきらかになったということができます。その成果は現在執筆中のいくつかの著作(『世紀末を越えて』[人文書院刊行予定]など)で発表することになるでしょうが、研究はまだ中継地点にさしかかったばかりです。(1997/4)