表題番号:1996A-181 日付:2002/02/25
研究課題中国近代における演劇と知識人―清末民初の北京、上海を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 演劇博物館 助手 平林 宣和
研究成果概要
 本研究は、1:筆者がこれまで研究してきた中国清朝末期の演劇近代化の潮流である「戯曲改良運動」について、その起因の一つである中国近代知識人の勃興と、上海おける彼らの演劇への関与の実状を、その歴史的環境に照らしながら解明すること、2:改良運動収束後の民国初期の現象として、特に北京の知識人によっておこなわれた、演劇に対する中国古典文化としての価値付与のプロセスを文化史的流れの中で解明すること、以上二点を目的として設定した。
 前者については、今回の検討を通して、同時代を生きながらも、辛亥革命をピークとする改革の流れとは離れたところで、演劇に関与し始めた一部の知識人の姿が明らかになった。彼らは辛亥革命の前後からマスメディアに登場しはじめた劇評という仕事に関わり、それまで社会改革に腐心していた知識人とは異なる立場から演劇との接触をはじめている。この流れは民国以降、より一般的な傾向として普及してゆくものと考えられる。
 後者に関しては、辛亥革命後、社会改革の動きが減速するに従い、必ずしも改革に組みしない知識人達が、新しい国家の枠組みである「中国」独自の文化を模索してゆくプロセスの中で、演劇にどのような変化を与えていったかを、北京の劇壇を中心に探求した。一連の検討により、1910年代中葉以降、女形俳優梅蘭芳を軸に知識人が参集し、様々な中国の古典的イメージによってその新作演目を彩っていった過程を、従来の単純な演劇史的記述から、より広範な近代の文化史的な流れの中へと定位しなおした。
 以上二つの相互に関連する課題の検討により、中国が伝統社会から近代社会へと変貌してゆくさなか、知識人と演劇との間にいかなる関係の変容が見られたかを、文化史的に明らかにするための端緒を開くことができたと考える。この点に関し、以後も研究を続行する予定である。