表題番号:1996A-178 日付:2004/11/02
研究課題熱的揺らぎ下における量子揺らぎに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 山中 由也
研究成果概要
 本研究は巨視的な系と相互作用する量子系の振る舞いを、様々な角度から、特に新しい観点と方法を駆使して、理論定式化を目指したものである。今年度の成果は以下の通りである。
 先ず、トンネル時間の評価に関して、昨年度Nelson流量子化によるトンネル現象の我々の新しい取り扱い(Phys.Lett. A204 (1995)329)を提唱した。今年度は、その適応範囲を広げるよた。現実の実験では、多数のチャンネルが結合している結果、非弾性過程が起こる。当然この非弾性効果はトンネル時間の評価にも影響するはずである。これまで多チャンネルが結合する系に対して、Nelson量子化での取り扱いは知られていなかった。今回、チャンネル間の量子飛躍を確率的飛躍過程とみなして、矛盾なく多チャンネル結合系に対してNelson流量子化を定式化することに成功した。さらにそれに基づいてトンネル時間を確率過程の数値計算で評価した。成果は論文に纏めて投稿中である。
 量子力学の観測過程は通常、量子系と巨視系の相互作用によってもたらされると考えられている。今回我々が調べた問題は、ケーオス的振る舞いをする古典少数系と量子系との相互作用によって、量子系の位相相関が果たして切れるのかどうかということであった。古典少数系の動きが量子系に比べて著しく遅い場合と速い場合を調べ、我々の予想通り、条件次第で量子相関は切れることがあることが示せた(Phys. Lett. A222 (1996)130)。このことは、測定装置は必ずしも巨視的物理系でなければならないわけでなく、ケーオス的振る舞いをする少数系でも可能であるということで、今後の測定器の考案や観測問題では重要な指摘になっている。