表題番号:1996A-172 日付:2002/02/25
研究課題脳の準備電位による認知情報処理過程の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 助手 正木 宏明
研究成果概要
 ヒトの頭皮上から記録した脳波を、随意運動の開始時点に揃えて加算平均すると、運動開始前約2秒から陰性方向に緩徐に立ち上がる準備電位(readiness potential; RP)が得られる。この準備電位は、前期成分BPと後期成分NS'から構成されることが知られており、各成分の振幅はヒトの脳内情報処理過程を反映して増減する。本研究では、この準備電位を用いることで、運動課題の難易度の差異を被験者がどのように認知処理し、運動準備を行うかについて調べた。
 課題には筋活動の関与が比較的少ないゴルフのパッティングを用いて、テークバックに先行して出現する準備電位を記録した。被験者は体育局ゴルフ部員であった。課題難度はカップ直径の大小で操作し、低難度条件と高難度条件の2条件を設定した。脳波をテークバック開始時点で加算平均して準備電位を算出したところ、いずれの条件においても、テークバック開始の約2秒前から立ち上がり、全体的に緩徐な波形の準備電位がみられた。また条件間の比較では、低難度条件の方が高難度条件よりも波形は大きく、特にテークバック開始直前には有意差が認められた。課題としての困難度は、パッティングの成功率の結果から高難度条件の方が難しかったことは明らかであった。しかし、被験者の内観報告には、ゴルフ部員として外せないという緊張感は低難度条件の方で生じたという報告が多く聴取された。準備電位の振幅差はこの課題に対する認知が運動準備過程に影響を及ぼしたことに起因したものと考えられた。本研究の成果から、パフォーマンスレベルには現れない課題難度の認知の差異を準備電位という生理指標から探る可能性が提示された。