表題番号:1996A-163 日付:2002/02/25
研究課題不確実性下での環境財の価値と最適開発計画に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 助教授 赤尾 健一
研究成果概要
 不確実性下での家計の通時的最適選択モデルを確率的ベルマン方程式の形で定式化し、環境財の変化を伴うプロジェクトの社会的費用便益分析のために利用可能な貨幣尺度を検討した。
 利用可能な貨幣尺度は、オプション価格(事前的確定的支払意志額;補償変分や等価変分の不確実性下への直接的な適用)と、Graham(AER 62, 1981)が提案した条件依存支払意志額の最大期待値(Graham価格とここでは呼ぶ)である。保険市場がまったく開設されていない状況ではオプション価格が適切な貨幣尺度である。その状況でGraham価格を用いることは、存在しない保険市場の開設の便益を含むために過大評価となる(ときには期待効用変化に対して符号保存的ではなくなる)。一方、完全な保険市場が存在している状況では、Graham価格が正確な貨幣尺度である。オプション価格に基づく評価は過小推定となる(ただしそれは常に符合保存的である)。現実の社会は以上の極端なケースの間にある。そこでは、環境財の価値をGraham価格は過大評価しオプション価格は過小評価する。実践的な修正は、オプション価格を用い、保険企業の利潤の変化をそれに付け加えることである。
 最適開発計画に関しては、不確実性下での不可逆的な環境財の開発について、閉ループ制御による適切な開発タイミングと、従来の費用便益分析(開ループ制御)の結果がいかに違うかを示す数値例を作成した。閉ループ制御による開発計画の現在価値期待値は、常に開ループ制御による計画のそれ以上になる。さらに数値例では、開発のタイミングが、従来の費用便益分析では閉ループ制御のケースよりも早くなった。このことは生態系のようにいったん破壊されてしまうと元に戻すことのできない環境財に関しては、従来の費用便益分析が開発を指示してもなお、慎重さを要することを示唆する。