表題番号:1996A-161 日付:2002/02/25
研究課題企業間関係における信頼の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 助教授 長谷川 信次
研究成果概要
 情報通信の基盤がそれまでのアナログ技術からデジタル技術へと移行する、情報通信革命の出現によって、企業の経営環境は大きく変わろうとしている。デジタルという一元的な技術によって通信と情報処理との親和性が一挙に高まり、それによって情報通信がこれまでの一方通行的なものから双方向へ、逐次的から同時並行的へ、単一メディアからマルチメディアへ、階層から分散型ネットワークへと変化する。この情報通信ネットワーク上で取引を行なうことによって、企業間関係は、これまでの提携や系列に見られたように排他的継続的な関係の中で互いの意思決定を部分的に拘束しあうものから、互いの企業が自由に事業活動を行ないながらネットワーク上で柔軟に協力しあう関係へと変化している。
 日本企業のグローバル戦略は、かつての直接投資から国際的な提携戦略へと多様化してきた。それは、自社の経営資源を海外へ移転・利用する際の内部化戦略から、外部経営資源の導入への方向転換を意味した。競争優位の利用から獲得への戦略シフトである。しかしながらいずれも、経営資源を自社内に囲い込むことで他社との差別化を図ろうとする点においては変わらない。これに対して最近の企業間提携は、外部資源の導入・取り込みから、自らの経営資源を積極的に公開して、他企業と共有していく方向に進んでいる。閉鎖的な囲い込み型の提携から、オープンなネットワーク型の提携である。この経営資源の共有の場を提供したのが情報ネットワークである。
 こうした情報ネットワーク上の緩やかな提携にはメリットばかりではない。情報通信技術がいかに発展しようとも、情報の非対称性や暗黙知、所有権保護の困難さ、公共財的側面など、経営資源の基本的特性が変わらない限り、取引相手による機会主義的行動のリスクが常に伴う。しかも排他的継続的取引関係の中で確認された機会主義に対する抑制装置は、オープンな企業間関係においては期待しにくい。しかしながら、電子ネットワーク上の企業間関係には、学習効果や評判効果など、信頼をベースとした新たな機会主義抑制メカニズムが働くことが期待されよう。この信頼メカニズムは機会主義を完全に封じ込めるようなものであるとは楽観視できないが、そうであるとしても、技術と産業の枠組みが大きく構造変化している今日、それを補って余りあるメリットを情報ネットワークを通じたオープンな企業間関係はもたらしてくれると企業は認識している。