表題番号:1996A-159 日付:2004/03/22
研究課題集団による問題解決過程のモデル化に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 常田 稔
研究成果概要
 集団による問題解決過程のモデル化に関する一連の研究の一環として、本年度は問題解決に時間的制約が課せられた場合の過程をシミュレートするモデルの開発を目指した。
 ワイナーはケース・スタディから時間的制約もしくは期限設定が集団の問題解決に与える影響を抽出し、実際の意思決定場面に応用可能な示唆を得た。筆者らも、学生を対象とする問題解決実験から問題と期限とを同時に与えた場合の観察的知見を得ている。
 コーエンらは、集団を組織化された無秩序としてとらえ、ある選択機会で問題・解・参加者が偶然的に結びついたとき決定が行われるとして、問題に対する解決の他に見過ごし・やり過ごしの現象も起こりうるとしたゴミ箱モデルと称する一種のシミュレーション・モデルを開発した。また、高橋は選択機会を1つに限定し、やり過ごし現象をより鮮明に分析することができるシミュレーション・モデルを開発した。
 そこで、本研究では設定された期限が切迫すると参加者の問題処理に対するエネルギーが増加する。設定された期限が到来すると蓄積されたエネルギーが小さくても決定に関する何らかの処理が行なわれるとの仮説のもとに高橋モデルを改良し、時間的制約が解決・見過ごし・やり過ごし現象に与える影響を調べることが可能なモデルを開発した。開発されたモデルによるシミュレーション結果と高橋によるものとを比較すると、高橋モデルでは負荷係数の増加とともに解決数が急激に減少しやり過ごし数が急激に増加するが、本モデルではそれらが抑制され、期限切迫状況下では参加者が問題に懸命に取り組み、むやみに問題をやり過ごさなくなるという現象が観察された。また、決定にかかる所要時間も期限設定によって抑制され、いたずらに決定に時間を費やさない場合があることが明らかとなった。これらは、ワイナーや筆者らによる実験の集団的問題解決過程の観察事実とよく一致している。さらに、決定までの期限をいたずらに長くもしくは短く設定するよりもある最適な長さに設定することによって、見過ごし・やり過ごしが抑制され解決が促進されるという現象がシミュレーション上にあらわれた。これは、我々の常識から推察されることと一致しており、人間に対する実験的検証をする価値のある課題を提供している。
 以上から、開発されたモデルが時間的制約のもとでの集団の問題解決をシミュレーションするのに有効なものであることが示されたと言えよう。研究成果は、すでに学会で口頭発表し論文としても公表している。