表題番号:1996A-157 日付:2002/02/25
研究課題ロシア民営企業の賃金管理
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 辻 義昌
研究成果概要
 I. 給与と租税公課
 1996年は通算4度ロシアを訪れ、精力的に資料を収集し、各方面の実務担当者と面談したが、賃金実務(労働法、租税法、簿記)の知識が絶対的に不足していることを痛感した。法令のコンメンタールだけでなく、当局の通達や書簡など実務レベルでの文献資料で勉強し直し、『現代ロシアの賃金形態』という題目で北大スラブ研究センターから出版した。
 II. ヤミ経済とヤミ給与
 ヤミ給与の跋扈と国民所得統計の歪曲の原因は、1. 徴税側の経験が脱税側の経験に追い付かない、2. 徴税統計と一般統計とが一体化しているために、客観的な統計が得られない、3. 生産統計が中心であるため、サービス産業中心の現況にそぐわない、という点にあると考えられる。
 正確に現代ロシアの給与水準の実態を把握するには、既存の資料では1. 統計局によるヤミ給与の調査、ヤミ経済の調査、零細企業調査 2. 家計調査 の利用が考えられるが、私は、特に高級輸入食品の消費高と価格動向に着目したい。従来の統計は全部の平均なので、貧困層の消費パターンからのバイアスがかかり、市場化・民営化の成果の享受者である上流中流の生活者が別の階級社会を構成しているという現実に即していない。
 III. ロシア連邦労働法典の効力
 民営化の開始以降は賃金水準および労働条件全般について各企業の自主裁量に任されることになり、法的規範の効力が失われたかの感があった。しかし、民営企業における賃金決定のメカニズムそのものには、国営企業の職務職階表による格差付の方法が圧倒的な影響を与えていることが分かった。これは従来の賃金決定に代る方法が見つからないからと言うよりは、国営企業の側からする競争条件の同一化要請に行政が応えているために規制が多々残存しているからである。これに踏まえ、『ロシア連邦労働法典』の翻訳も行なった。