表題番号:1996A-155 日付:2002/02/25
研究課題産業組織化の方法としての「柔軟な専門化」論の検証-バブル崩壊前後の長野県坂城町の中小企業及び商工会の行動をケースとして
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 上沼 正明
研究成果概要
 坂城町を対象とした研究グループの成果『地方産業振興と企業家精神』(新評論)において編者の関満博氏は、中小企業研究の今日的意義を説いて言う。第一に、今日の経済構造転換は地域産業と中小企業の存立基盤・条件の根本的改編をもたらし、一部に「90年代型中小企業」が登場しつつも全体的には低迷感が広がる、所謂「踊り場」に立つ中小企業を現出させている。第二に、三千数百の市町村は表面上、農業を基礎としつつ、その実、必死の思いで誘致した企業に多く依存し、円高による誘致企業の動向に不安を覚えている。従って、地域社会の雇用とコミュニケーション形成の土台となる中小企業の21世紀的再生なくして豊かな社会の建設はない。そして第三に、大都市への人口集中とスラム化や農山村の過疎化等に悩む途上国及び移行期経済にとって、先進国の事例に見られる「農山村の工業化」は、緊要なテーマである。
 本研究もまた、中小企業を経営学や企業間関係論が対象とする都市部事例であるよりも、全国の過疎と高齢化に悩む大半の農山村地域社会の発展のための核と位置づける。そして、坂城町の商工会やテクノセンターの活動に見られる協同組織化の歴史と近年の動向は、地域社会の資源とニーズに根差した企業の成長と、協同による商品・技術・販路開発、更には人材育成等を地域社会一体となって行なう新しい「社会の編成・組織原理」となる可能性を持つものと評価し得る。
 特に、坂城町を一部に含む北信・東部地域は、鹿教湯のリハビリセンター、佐久総合病院を核とする先進的農村医療施設、東部地域の農業資源開発研究基地、佐久地方のリサーチパーク、軽井沢の国際情報交流基地など、相互交流が全国、否、世界で21世紀に通用する製品の開発をもたらす可能性を秘める。この点で、外部資源に一方的に依存し影響されるのではない、地域の内部資源に基づく社会編成の原理の実験場として注目に値する。