表題番号:1996A-154 日付:2004/03/09
研究課題企業従業員に対する報酬システムとそのインセンティブ効果の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 教授 井上 正
研究成果概要
 日本企業は、高い成長経済の下で、シェアの拡大に注力し、スケールメリットを活かした規格化と大量生産方式によって、強い国際競争力を持つに至った。しかし、バブル崩壊とその後に続く昨今の日本経済の低迷は、日本企業の雇用制度の根本的見直しを要請している。日本的雇用システムは企業特殊的な人的資源の確保、企業内でのノウハウ・技術の移転、集団としての生産性、企業と従業員の間のリスクの分担、従業員の勤労意欲・忠誠心へのインセンティブなどの点で合理性をもつといわれている。一方、その最大の欠点は、労務費の固定費化という点にある。
 そこで、本研究ではそのための代替的な報酬制度の分析を行った。まず、年俸制の導入や能力給制度の導入などであるが、これらは結果重視で年俸を査定する以上、企業内の個人に責任と権限を与えた上での「目標管理評価制度」でないとうまく機能しないであろう。すなわち、日本企業における集団主義は温存したまま、個人の実力主義を評価する年俸制を名目的に導入したのでは、結局は日本的雇用システムがもっていた良さまで失うことになると考えられる。そこで、従業員の企業に対する忠誠心および企業業績に対する関心といった日本企業の強みを失うことなく報酬制度改革を行うには、短期指向の年俸制や能力給と同時に長期指向のストック・オプション制度の導入が吟味されるべきである。ストック・オプションは企業に負担なく、しかも業績とリンクした報酬を与えることができるので、日本企業の抱える上記の問題点を解決するための一つの手段と考えられる。しかしながら、勿論企業が継続的発展を行うためには、単なるストック・オプションの導入ではなく、十分長期にわたり、しかも従業員に対して継続的なモティベーションを与えられるような報酬制度となるような工夫をおこなうことも重要であるということが明らかになった。