表題番号:1996A-130 日付:2002/02/25
研究課題大規模柔軟多体力学系の数値解析方法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 吉村 浩明
研究成果概要
 ディジタル技術の高度化に伴い、人工衛星や宇宙マニピュレータに代表される、いわゆる多体システムの設計は、ますます高機能化が要求される傾向にある。特にコスト削減の目的からも構造物の軽量化は不可欠であるが、部材の剛性の低下に伴う弾性振動の発生は、高速かつ高精度な運動制御系の設計を全く困難なものにしている。これら柔軟多体力学系は、莫大な数の拘束条件のもとに多数の剛体や弾性体等の構成要素が接続された大規模な非線形力学系であり、その動力学のモデル化と解析方法の確立は、とりわけ重要な課題となっている。
 本研究の目的は、このような大規模柔軟多体系の数値解析方法の開発である。以下に、これまでの研究結果について報告する。まず以下に本研究の遂行にあたり、主要な技術的課題は以下の通りである。
 1) ダイナミクスのモデル化:莫大な次数の陰関数形式の非線形代数方程式群である拘束条件から、とのように拘束力等の不必要な従属変数を消去し、どのように必要となる数学モデルを記号コード化するか。
 2) 導出された数学モデルは、陰関数形式の非線形微分代数方程式群(DAE)であり、どのようにして解を数値的に安定かつ高速に求めるか。
 これらの問題点に関して以下に述べる方法で研究を進めた。
 まず、大規模化した力学系のモデル化を行うにあたり、システムの構造化方法を提案した。すなわち、バーコフのノンエナージック性によって、システムをエナージックな要素と、それらの接続関係を表すノンエナージックな要素に分離する。この際、分離操作はシステムの原始レヴェルまで行い、システム全体の運動学的、力学的関係を因果律とともにネットワーク構造として把握する。とくにノンエナージック要素の特性関係を一般化速度と力に関する入出力係数行列として定義する。これらの行列は、システムの接空間および余接空間の構造の数学的表現を与えており、許容できる部分接空間および部分余接空間への直交射影を容易に規定できる。これにより、システムの動力学に関する定式化方法を提案した。
 次に、上記の動力学を用いた数値解析方法を提案する。回路解析で用いるスパースタブロー法を拡張して、力学系への適用を試みた。とくに、ニュートン法におえる収束計算の高速化を考慮し、ヤコビ行列に現れる要素配置に関するトポロジに注目し、予め逆行列の演算過程を陽に記号生成することを可能とする、高速スパース行列処理のアルゴリズムを提案した。この方法を用いることにより通常のガウスの消去法の1万倍、内積型スパース行列処理法の100倍の高速化を実現した。さらに、数値積分法の安定性についての比較研究を行った。比較する数値積分法として、ステッフ安定なBDF法、後退オイラー法およびルンゲクッタ法を考え、非自律系の非線形システムを代表する試験方程式を用いて、これら数値積分法の安定性の評価を行った。安定性においてはBDF法が優れているものの、時間変化によってヤコビ行列の固有値の変化を伴うため、通常の線形試験方程式による安定領域の判定だけでは大域的な安定性を保証できず、何らかの評価方法の確立が必要であること、また精度保証についても問題を残しているが、これらについては今後の課題としたい。
 以上の研究成果の一部は学会発表の予定である(別紙参照のこと)。