表題番号:1996A-120 日付:2002/02/25
研究課題集落景観を基礎とする環境文化の住民参加型保全手法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 後藤 春彦
研究成果概要
 わが国の産業構造の変化や農政の方向転換によって集落景観が荒廃を見せている。近年その傾向は特に著しく、集落人口の高齢化によって集落景観の荒廃はより一層加速されることが容易に予想される。集落景観の中でも特に田園景観はわが国の代表的な景観に位置付けられる。これらは農地解放以来、農地所有者の家制度に裏付けされた自主的努力によって維持継承されてきたが、今日、休耕田の点在する風景へ変貌しつつあることは大きな課題である。また、国土保全や環境文化の継承と言った視点からも集落景観の保全は検討されるべきものと考えられる。
 本研究課題は三重県伊賀盆地を対象にすすめられた。ここは山深い盆地の閉鎖性によって独自の環境文化を育んできた地域であり、随所に優れた集落景観を残している。一方、大阪・名古屋の二大都市圏に近接する立地条件から、大規模住宅地開発がすすむなど、近年景観変化が著しい地域でもある。本研究では、集落景観を基礎とする環境文化の保全について、住民参加型の手法を実践的に展開することにより、農業経営と農作業の実態に即した集落景観保全手法を導くことを目的として、地元自治体および各集落自治組織の協力を得ながら住民参加の村づくりワークショップを連続的に開催した。
 農山漁村集落における参加型まちづくりは緊密なコミュニティを解きほぐすことが求められる。すなわち、長老支配のムラ社会から脱皮し、実際にまちづくりを担うことのできる若い世代を育成し、その成果を集落景観の保全と言った見えるかたちで提示していくことを意図した。
 公的組織による集落景観の保全の取り組みは歴史的価値の高い部分空間にとどまりがちである。特に、田園景観などの農地景観についてはこれまでに環境文化の視点からの保全の試みはあまり行われなかったため、現実的な対応策としては、農業者個々人の自覚に頼らざるを得ないのが現状であった。本研究では、詳細な現地調査および分析と参加型ワークショップの成果をふまえ、農業経営と農作業に関する景観への影響評価を行い、集落景観保全の方法について新しい農山漁村における生活文化や新しいライフスタイルの視点からの提言を行った。