表題番号:1996A-083 日付:2002/02/25
研究課題ドイツ・ロマン主義における象形文字の言説分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 助教授 神尾 達之
研究成果概要
 18世紀後半から19世紀前半にかけて、文学作品(アイヒェンドルフ、ティーク、ノヴァーリス、ホフマンら)と理論的著作(Fr.シュレーゲル、シューベルト、ルンゲら)のなかに、象形文字のイメージが頻繁にあらわれるようになる(暗号文字もその一つの変種である)。これは、1790年に生まれたシャンポリオンが、1822年に象形文字の解読に成功し、はやくも1832年に死んだという事実と呼応している。ヘルダーによれば自然は神によって書かれた象形文字のテクストであるが、神をAutor=Autoritatとする言説の解読コードを見つけてしまった者が四十代半ばで死んでしまったということは、同時代の作家や思想家たちにとっては、一旦は手にした、超越論的シニフィエへの解釈学的なアプローチの可能性が決定的に失われてしまったことを示唆した。それでもなお、文学テクストのなかで象形文字がイメージとして散種されつづけたとすれば、それは、アルファベット文字の導入が方向づけた「進歩」への反動であると考えることができる。なぜならばアルファベット文字は、フーコーが言うように、「表象と文字記号との正確な平行関係を破ることで」「文字表記の進歩と思考の進歩を並行させることができる」(これは、コンピュータ言語の発達史を参照すれば、一目瞭然だ)からである。かくして象形文字は、ただ単に自然のコードとして捉えられるのではなく、夢や不気味なるものを表象するようになってゆく。このことが集約的にあらわれたテクストがビューヒナーの『レンツ』である。そこでは象形文字は、アルファベット文字に媒介されない原初的な痕跡を意味している。