表題番号:1996A-076 日付:2002/02/25
研究課題井伏鱒二の基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 東郷 克美
研究成果概要
 昨年度にひきつづき、主として井伏鱒二の作品の文献的書誌的調査・研究を継続し、井伏文学の研究の前提であるテクストの蒐集と整備につとめた。井伏の場合特に戦前の活動に不明な部分が多かったが、現在までのところ戦前の作品については、その初出と収録の刊本の確認と蒐集をほぼ終えることができた。
 平成八年十一月より筑摩書房から全二十八巻別巻二の新全集の刊行が開始され、その編集委員として、企画編纂、本文校訂、解題執筆の仕事を担当し、この特定課題研究助成による成果を集約することができたのは幸せであった。本全集は、井伏鱒二のはじめての本格的全集で、活字になった作品のすべてを収めることをめざしている。作品の蒐集、本文校訂、解題における書誌的事項の記述にあたっては、過去二年間にわたる本研究助成費による資料の調査・研究を有効に生かしえたと考えている。
 名だたる改稿癖の持主であった井伏鱒二の場合、本文の決定が難題中の難題であるが、今回の全集では単行本収録の作品については、初収録の刊本を底本とし、初出と底本の間の異同を示した。その本文調査にあたっては、本大学の卒業生や大学院生の全面的な協力をあおいだが、彼らの研究、教育にとってもこの作業はきわめて有意義であった。
 なお、全集は本年四月現在六冊を刊行したところであるが、今後の課題としては主として戦後作品の蒐集と本文校訂、さらには最終巻の研究資料編に収録を予定している著作年表、単行本書誌、年譜などの作成が残されている。できうれば来年度以降またこの研究助成費を申請して研究の完成を期したいと考えている。