表題番号:1996A-072 日付:2002/02/25
研究課題火山荒原の一次遷移における蘚・地衣類の生態学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 伊野 良夫
研究成果概要
 日本の火山荒原における一次遷移では、多くの場合シモフリゴケ(蘚類)やハイイロキゴケ(地衣類)が先駆植物のひとつとして出現している。これらは維管束植物と異なり、体中の水分を失っても死なず、水分を吸収すると生活活性を復活させるという乾燥耐性をもっている。乾燥耐性のある植物がその場に有機物を供給することにより、後続の出現種の苗床をつくり、遷移の進行を促進していると考えられる。富士山の御殿場側斜面は1600mあたりが森林限界になっていて、それ以上の高さでは一次遷移の初期段階にある。この地域では林縁や小群落周囲にシモフリゴケコロニーが分布し、その外側にハイイロキゴケコロニーが散在する。シモフリゴケコロニー中に見られる実生の種類は裸地やハイイロキゴケコロニー中で見られる種と同じであったが、数は裸地やハイイロキゴケコロニー中に比べ少なかった。まわりに種子供給親植物が存在することから、シモフリゴケに発芽抑制効果があることが推測された。抑制効果因子としてコケのもつ化学物質による作用、コケコロニーの構造に基づく物理的因子、動物の摂食効果などが考えられる。化学的因子の検討として、シモフリゴケの水浸出液、ハイイロキゴケの水浸出液を用いて、いずれの場所にも存在するイタドリ、クサボタン、シモツケソウ、カリヤスモドキの発芽実験を行った。その結果、浸出液(化学物質)による影響は認められなかった。次いで、構造を壊さないシモフリゴケコロニーに上記4種の種子を蒔き、常時湿った状態での発芽率を調べた。その結果、対象とした濾紙や礫上との違いは認められなかった。生育地では頻繁な乾燥と湿潤が繰り返されるので、そのような実験が必要とされる。現地調査では、発芽した個体の多くは乾燥と思われる原因で死亡していくが、シモフリゴケコロニーにおける死亡率は他に比べ、有意に低かった。このことは維管束植物が林縁あるいはパッチ周辺のシモフリゴケを介して、その分布域をひろげていくことを示唆している。