表題番号:1996A-066 日付:2002/02/25
研究課題大惣旧蔵本を中心とする歌舞伎台帳の書誌的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助手 児玉 竜一
研究成果概要
 歌舞伎台帳の研究は、刊行中の『歌舞伎台帳集成』および、その刊行準備段階で編纂された『歌舞伎台帳所在目録と書誌調査』が、現段階での研究水準を示しており、貸本屋系統のものと、劇壇の内部資料であったと思われるものとの、二つに大別されて考えられている。従来『歌舞伎台帳集成』解題などでは、貸本屋の手に残って現在まで伝わった台帳は、おしなべて貸本用に筆写されたものと記述されてきたが、筆者は、貸本屋が入手する以前の台帳の素性に注目した。即ち、劇壇内部にあったものが流出して貸本屋の手に入った可能性があるのではないか、という仮説である。阪急学園池田文庫が発行する「館報池田文庫10号」に執筆した「歌舞伎台帳の素性管見」では、この例証として、
 1 従来貸本用に筆写された台帳と考えられてきた、名古屋の貸本屋大惣が所蔵していた「七五三」と署名のある台帳群(現在は、東京大学文学部国語研究室および京都大学付属図書館に所蔵)
 2 1とは別の芝居根本所の手を経たことが明らかな「七五三」署名台帳(阪急学園池田文庫所蔵)
 3 劇壇内部にあって奈川七五三助に関わることが明らかである台帳(早稲田大学演劇博物館所蔵)
 の三系統の台帳に共通する筆跡を、写真版として掲載し、1・2が、劇壇内部の人間の筆になる可能性を示した。また、日本近世文学会春季大会での口頭発表「義太夫狂言演出の変遷」では、上記と同じ「七五三」署名を持つ皇學館大学神道博物館所蔵の台帳に言及、同台帳の紙背の反古資料(「〆助様」宛書簡など)を紹介した。これについては、台帳の綴糸を切って貰って紙背を撮影し、写真版としていずれかに掲載の予定であるが、目下交渉中である。
 一方で引き続き東京大学文学部国語研究室、京都大学付属図書館の台帳の調査を進め、「七五三」署名を奈川七五三助のものと見てよいか否かの、例証を蒐めており、調査が完了次第、ひとくぎりとして纏めて発表する予定である。