表題番号:1996A-057 日付:2002/02/25
研究課題中世フランスのトルバドゥール、フォルケ・デ・マルセイユの作品校訂
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 助教授 瀬戸 直彦
研究成果概要
 1231年にトゥールーズの司教として没したこの詩人についての校訂を目標にしているわけだが、具体的にはつぎの二つの方向を見据えながら研究をすすめた。すなわち:
 (1)ほかの研究者による校訂を調べ、方法論を模索すること
 (2)じっさいに数十ある写本を校合すること
 今年度は事実上前者の方向を探るのが主になった。というのは、4月に、『文学研究科紀要』に載せた論文において、フォルケ・デ・マルセイユの詩を、いわば見本として一つ選びC写本をもとに校訂し、注釈をほどこしてみたところ、なぜC写本に固執するのかという疑義が寄せられたからである(たとえばFreie Universitat のAngelica Rieger教授)。自分としては、すでにこの写本の性格についてはある程度論じていたので(たとえば95年の《Le chansonnier C et le troubadour Folquet de Marseille》in La France Latine において)、十分な説得力をもっているかと思っていたのだが、やはり問題は残るのかもしれない。つまりCにしか収録されていない作品は別にして、ほかのヨリ古いイタリア写本(ヴァティカンのA写本-13世紀末、モデナのD写本-1254年)のほうが、底本には適しているのではないかというのである。CやRは、13世紀末から14世紀初めのラングドック地方で作られたと推定される写本で、多かれ少なかれアルビ十字軍以降の、南仏の政治情勢をただよわせたテクストといえる。
 それでは、イタリアに残されたテクストのほうが、トルバドゥールの作品を忠実に伝える度合が多いか、多いとしたらいかなる点においてか、といった問題にとりくむ必要があった。そのためには、別の詩人のテクストをも検討し、Cとの差異を比較しなくてはならない。そこで初期のトルバドゥールであるマルカブリュとジャウフレ・リュデルのいくつかの詩を爼上にのせてみた。マルカブリュの作品については、97年4月の日本ロマンス語学会の30周年記念シンポジウムで発表する予定、ジャウフレ・リュデルのほうについては別の機会にあきらかにしたいと考えている。