表題番号:1996A-051 日付:2002/02/25
研究課題合理的期待形成理論の知識社会学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 森 元孝
研究成果概要
 本研究で実施した主要な作業は、次の3点から成っている。1)Robert E. Lucasの諸論文とHarry M. Markowitzの著作を精密に読み込み理解すること。2)景気循環と経済政策、および投資の合理的配分ということについて、研究代表者が、1996年に発表した『アルフレート・シュッツのウィーン -社会科学の自由主義的転換の構想とその時代』で集中的に扱った問題、すなわち社会経済学の古典的自由主義理論から、LucasあるいはMarkowitzの時代の問題に至るまでの、歴史的事実、経済学史の整理を行うこと。3)近年の情報通信技術の飛躍的革新により発生した金融犯罪についての事例研究の準備をすること。以上3点は、次のさらに大きな研究への準備へと展開しつつある。
 1)については、現在も継続中である。2)については、別途『ザルツブルクのハイエク』という主題で研究書を準備中である。2000年の春を目標に資料収集と調査を進めている。3)についても、別途、最近発生した数種類のコンピュータに関係した金融犯罪について、またここ10年間に進行してきた金融技術への情報通信技術の飛躍的な寄与とそれがもたらした人間・労働環境の変化についての社会調査を準備している。調査の手法については、1996年に発表した『逗子の市民運動』が、その雛形となると考えている。すなわち、とくにこの調査では、証券業に焦点を置いて、その商品開発技術と労働環境の急激な変化を精密にたどりながら事実確認をしていくことが主要な作業となる。
 以上を踏まえて、1998年夏を目標にして、「貨幣、リスク、日常性」というタイトルで研究論文を構想している。上記3点の今後の成果により成るものであるが、現在進行中の1)と2)の作業から、経済学が通常科学化し、ひとつの理論科学と成立していった過程、さらにそれが社会技術として1960年代中に確立していったことを詳説することができるようになろう。さらに、その社会技術が、どのような問題を引き起こしているのか、また起こしうるのかについて、とくに3)の今後の成果により確認・予想することができるようになろう。これらのことは、立ち後れている、経済社会学に大きな貢献をする知見をもたらすと確信している。