表題番号:1996A-043 日付:2002/02/25
研究課題芥川龍之介作品研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 佐々木 雅發
研究成果概要
 すでに「『一塊の土』評釈-<人間の掟と神々の掟>」(「比較文学年誌」第32号、平成8年3月)を発表し、現在「『秋』前後-時の流れ」(「比較文学年誌」第34号、平成10年3月予定)を執筆中、また「『南京の基督』断章」を準備中である。
 芥川龍之介の「羅生門」が下人の行動への決断の瞬間を捉らえ、その時間推移を密画的に描こうとしたことはすでに定説となっている。そしてそれは<失恋>によって人生の無根拠を知り、しかしそれを越えて生きてゆかんとする彼の、人生の<意味>奪回の見取図であったといえよう。
 その結果彼は<刹那の感動>において人生を領略する芸術家の創造行為を描き(たとえば「戯作三昧」「地獄変」)、いわゆる芸術至上主義の神話をつむぎ続けるのである。
 しかし人はその<瞬間>に立つことは出来ても、それを言葉で描くことが出来ようか。そしてこの問題に芥川はようやく気づきはじめる。
 おそらく「秋」はこの曖昧模糊とした問題をはじめて正面にすえた野心作といえよう。彼がこの作品執筆によって、<実際僕は一つの難関を透過したよこれからは悟後の修業だ>と感じたことは有名なことである。このことを作品の詳細な分析を通じ、追究してゆく予定である。
 なおこの問題は、拙論「『羅生門』縁起-言葉の時」(早稲田大学大学院「文学研究科紀要」第30輯、昭和60年3月)、「『地獄変』幻想-芸術の欺満」(上下)(「文学」昭和58年5~8月)の延長線上に設定されるものである。