表題番号:1996A-032 日付:2003/08/23
研究課題船荷証券の記載とその効力に関する比較法的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 箱井 崇史
研究成果概要
 申請者が継続している船荷証券の記載の効力に関する比較法的研究の一環として、本年度は船荷証券の記載と運送人の特定に関する問題を取りあげた。
 証券上の責任主体=運送人が不明確なまま船荷証券が発行された場合に、いったい誰が責任を負うのかという、きわめてプリミティヴな問題が、なお未解決の問題として国際的な議論が続けられている。これについて、近時のわが国の裁判例は、定期傭船契約の下で発行された船荷証券上の運送人は、船荷証券の記載とその解釈により特定されるものとし、「船長のために」との署名が存在する場合には、たとえ定期傭船者の頭書が印刷されていても、運送人は定期傭船者ではなく船主であると判示し(ジャスミン号事件)、大いに注目を集めた。ところで、フランスでは、この問題に関する豊富な裁判例の蓄積がみられ、いくつかの学説も示されており、すでに解決された問題であるとの指摘もなされている。そこで、本研究はこうしたフランスの判例・学説を分析することにより、この問題のわが国の議論に示唆を得ようと試みたものである。
 第一に、フランスでは傭船契約の法的性質から導かれる責任主体にかかわらず、船荷証券上の責任の帰属主体は当該船荷証券の記載とその解釈によって導かれるとの原則が、もっぱら証券を譲り受ける善意の第三者を保護するために確立されていることをみた。そして、第二に、この場合の解釈は、やはり第三者の保護を確保するため、常に第三者の視点に立って、第三者に有利な解釈がなされてきていることを確認した。そして、わが国の前述の裁判例のようなケースでは、証券上に頭書の記載のある傭船者が運送人であるとの結論が当然に導かれている。
 わが国でもフランスでも船荷証券上の運送人は船荷証券の解釈により導かれているのであり、結論の差異は、その解釈そのものに存在している。すなわち、フランスにおいては第三者の保護を指向した解釈が徹底されているのに対して、わが国においては、従来の海運慣行に大きく傾斜する解釈がなされているのである。船荷証券上の運送人が船荷証券の記載により特定されるべきとの要請は、前述のように、もっぱら第三者の保護を目的とするものであり、その解釈は当然にこうした目的に合致するようになされるべきであろう。
 この点においてわが国の裁判例は支持しえないのであって、船荷証券条項の解釈とあわせて、今後もさらなる検討を要するものと考えられる。なお、本研究については、拙稿「船荷証券の解釈による運送人の特定」早稲田法学72巻3号として公表した。