表題番号:1996A-031 日付:2002/02/25
研究課題主体の解体、意味の解体-ダダ、シュルレアリスムの周辺
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学部 助教授 谷 昌親
研究成果概要
 ダダやシュルレアリスムなどについて考える場合、その前提として、19世紀のヨーロッパにおいていかに無意識の概念が発見されていったかを調べる必要がある。無意識の発見といえばまず第一に精神分析学があるが、これは必ずしも精神病者だけに限った問題でなく、文学や芸術の分野においても、創作活動の裏側にはえてしてcogitoの崩壊がかいま見える。それがいわば内側の無意識だとすれば、外側の無意識として、移動手段の発達によってもたらされた主体の解体を考えねばならない。これは、移動の運動そのもののなかで主体が文字どおり揺さぶりを受けるとともに、自己の文化的なコンテクストの枠組みからも抜け出ることで生じる作用である。この内と外の無意識に加え、その物理的投影として、19世紀末に発明された映画をあげることができよう。映画は、たとえば絵画などに較べてもわかるように、作り手の主体性の関与が希薄になりうる表現媒体である。以上の3つの要素をテーマにして、ヨーロッパのいわば裏側の文化史を探る著作を準備中であり、これは、ダダやシュルレアリスムを経て、たとえばヌーヴォー・ロマン以降の文学運動やバルト、ドゥルーズ、デリダの思想、そしてクレオールといった、きわめて今日的な問題にもつながる仕事となるはずである。
 一方、ダダやシュルレアリスムにかかわる研究も続行中で、以前から研究対象としているルーセルについては、上記の観点から見直しをおこなっており、ダダの先駆的存在であるアルチュール・クラヴァンについての著作も準 備中である。さらに、ダダやシュルレアリスムと映画の関係もこれから調べてゆく予定であり、また、映画とは別の意味で無意識の投影とも言える探偵小説とシュルレアリスムの親近性にも注目しつつある。