表題番号:1996A-012 日付:2003/10/27
研究課題日独学術政策比較の基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 縣 公一郎
研究成果概要
 1996年度は、日独学術政策比較の基礎研究の枠内では、日本における学術政策の最近の動向を調査し、国際的枠組の中での位置付けを試みた。学術政策のうちの大学政策では、1991年6月の大学設置基準の改正、そして1993年5月の大学院設置基準改正が重要である。いわゆる設置基準の大綱化により、従来特に大学レヴェルで詳細な設置基準が設定されていたが故のカリキュラムの画一性を解消し、大学教育の多様化が図られている。
 今般の大綱化の目的は3つの観点に大別される。第一は、大学の個性化である。カリキュラム編成規定の大幅な緩和、特に教養課程と専門課程の区別を廃止した事により、各大学が独自の教育方針を設定する事が可能となり、各大学には、カリキュラムの自由設定を認められたと同時に、逆に自らの独自性を前面に押し出す責任が生じてきた。第二に、大学の質的高度化である。ここでは、個性化した教育内容の更なる高度化に加えて、学術研究の質的高度化が求められている。教育の高度化には、特に人文社会系の場合のマスプロ教育から小人数教育への転換が重要であり、研究の高度化を目指して、後述する研究助成の拡充が重要となる。最後に、大学の活性化が謳われる。特に、研究と教育における大学と社会のリンケイジが促進されねばならない。大学入学年齢人口の大幅減少傾向との関係もあって、生涯教育や社会人研修をどのように従来の大学教育に組み込むかが、重点となろう。また、研究と教育における国際交流の重要性が強調される。
 こうした大学政策を推進していく上で、研究助成政策が不可欠である。まず大学と社会との関連においては、1994年に改正された研究交流促進法は、国内交流及び国際交流の枠組での国立の大学や研究機関とその他の研究機関との研究交流を制度化したもので、私学では事例の多い産学協同の可能性を、国立の研究機関に開くものである。さらに、1995年に制定された科学技術基本法は、21世紀の日本の目標を科学技術創造立国と定め、基礎研究の助成を制度化したものである。(1)基礎研究と開発研究の促進、(2)社会との連携、特に委託研究の拡充、(3)発信型学術国際交流の促進等が主眼となっている。同法に基づいて1996年に閣議決定された科学技術基本計画は、2000年までの5年間に17兆円を研究開発投資額として打ち出している。この背景には、1995年の数値で見てみると、日本国内の研究開発投資がGDPの2.95%であって、アメリカの2.46%、ドイツの2.28%、フランスの2.39%等と比較して決して見劣りしないものの、これら研究開発投資における政府部門の支出割合が、日本では23%しかないのに対して、アメリカが35%、ドイツが37%、フランスが44%となっており、日本の研究開発投資における政府部門の果たす役割が小さい事が、挙げられる。こうした民間主導であった日本の研究開発で、21世紀に向けて少しでも政府部門が主導性を発揮すべきであるとしたところに、今回の研究助成政策拡大の意義が見出せよう。