表題番号:1996A-002 日付:2002/02/25
研究課題法の支配と行政権
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学部 教授 大濱 啓吉
研究成果概要
 わが国の公法学は、明治期にドイツ・プロイセンをモデルに法の継受が行われ、美濃部達吉や佐々木惣一らによって公法原理としての法治国家論(法治主義)が確立した。そして今日においても、わが国は法治国家だと説かれる。しかし、天皇主権下の公法原理と国民主権下の公法原理が同一であるというのはどういうことなのか。私はかねてからこの点に深い疑問を感じてきた。私見によれば、日本国憲法下の公法原理は「法の支配」でなければならない。わが国の公法理論はこの点を曖昧にしてきたが故に未だ戦前と基本的には何も変わらない理論が通用しているのではないかと思う。一部の論者のように実質的法治主義と言い換えるだけで事たれりとする訳にはいかない。本研究では、この問題を「都市形成における国家高権論」の角度から取り上げることにした(論文の題名は「法の支配と国家高権論-現代社会における都市形成権の確立にむけて-」【堤口康博・大浜啓吉編「現代社会の現状分析」所収・敬文堂・1997年】。
 本研究において、まず、今日いまだわが国の法制度の根幹に横たわっている都市形成における国家高権論が歴史的にどういう経緯で形成され制度化され、戦後の法制度の下でも生き延びてきたかを検証し、その概念の構造を明らかにする。そして、国家高権論は法治国家論とその思想的基盤を同一にするものであること、わが国の公法学が戦前の法治国家論の問題性を徹底的に剔抉し精算しきれなかったこと、この理論は天皇主権下では妥当しうるが、現憲法下では本来妥当しえないものであることを指摘する。その上で、法の支配の原理の下では、むしろ都市形成については新しい人権としての「都市形成権」が引き出されなければならないことを主張するとともに、都市形成権が憲法上どのように基礎づけられ、どのような性質をもつものか等その概念の内容についても検討を加えておいた。