表題番号:1995B-014 日付:2004/11/02
研究課題人形浄瑠璃演出史の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 内山 美樹子
(連携研究者) 文学部 専任講師 和田 修
(連携研究者) 演劇博物館 助手 神楽岡 幼子
(連携研究者) 演劇博物館 助手 東 晴美
研究成果概要
 本研究は、従来戯曲面からのみの研究に終始しがちだった人形浄瑠璃について、古浄瑠璃時代から現在までの演出形態の変遷を探ることを目的とした。ト書きを含まない浄瑠璃本文から演出を研究するためには、視覚面と音楽面の資料を収集することが必要となる。
 視覚面については、古浄瑠璃絵入本・浄瑠璃絵尽などの絵画資料を可能な限り収集することとし、そのためのデータベース作りを行った。また民俗芸能として今日に伝えられている人形浄瑠璃を調査し、その操法や語り方を比較検討して、いまは失われた古浄瑠璃の面影を探るため、新潟県佐渡、石川県東二口、宮崎県山之口、鹿児島県斧淵などの古浄瑠璃人形を調査し、ビデオなどに収録した。
 音楽面の資料としては、義太夫正本の板行時期の考証と、三味線旋律譜(朱)の入ったいわゆる稽古本の整理・収集を課題とした。義太夫正本の板行時期を知るには、正本に付された奥書が手がかりとなる。そのため、演劇博物館・早稲田大学図書館所蔵本を中心に奥書を分類、配列した。これまでは近松作品にのみ限られていた奥書の研究を、古浄瑠璃から近代まで広げ、また形式を基準に配列されていたものを、できる限り年代順の配列とした点などが前進といえよう。これを取りまとめて「演劇博物館浄瑠璃本奥書年表」とした。稽古本については、これまでまとまった研究がなく、とりあえず演劇博物館所蔵本について、分類整理を試みた。実際の演奏に即して作成されるものだけに、正本(丸本)との整合性がとりにくく、整理には多くの課題が残されたが、ともかくも両者を総合してとらえられる標準的な目録形式を策定し、データベース化した。その成果は、「演劇博物館所蔵特別資料目録6」に反映されている。
 これらの資料を相互に比較することで、初演時の演出を正本(丸本)と絵尽などにより想定し、その後の変化を、正本の刊行状況や稽古本における内容の変更に注目してたどることができるようになった。近松作「平家女護島」を例に取ると、二段目切は、初演時には付舞台に水槽を置いて、絶海の孤島を表現していたものと推定される。こうした大規模な視覚本位の演出が後退するにつれ、海女の千鳥の訛を強調し、その悲哀を印象づける現行の演出へと変遷したと知ることができる。さらに今後、収集された資料をもとに、多くの作品について検討を加えてゆきたい。