表題番号:1995B-003 日付:2002/02/25
研究課題閉鎖経済系におけるラットの採餌行動の学習に関する実験的考察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学部 教授 木村 裕
(連携研究者) 文学部 助手 五十嵐 靖博
研究成果概要
 本研究は、閉鎖環境におけるラットの採餌行動の成り立ちや変容の過程を、生態学的な適応という観点から捉えることを目的としたものである。具体的には、電撃の呈示による危機経験あるいは嫌悪的な経験により、
 (1)ラットが自然場面で見せる餌の運搬行動の生起頻度と、
 (2)採餌行動の継時的パターン(temporal pattern)と
 について、電撃呈示手続き導入以前をベースラインとし、電撃呈示手続き導入後に見られた変化を確認した。
 餌の運搬行動については、回廊式直線走路を用いた。餌の大きさと運搬率の関係を調べた後、被験体の行動とは独立な餌場での電撃呈示が、餌の運搬行動の生起頻度に及ぼす影響について検討した。この餌の運搬行動は、餌場における被捕食危険の低減により生起すると考えられることから、嫌悪的な事態である電撃の呈示による運搬率の上昇が予想される。その結果、1)電撃呈示による運搬率の上昇と、2)それに伴う電撃の回避率の上昇、が確認された。これら1)、2)のことから、(1)電撃の呈示という新たな事態に対し、ラットは生得的な反応の出現頻度を変化させることにより、適応的に行動を変容させる過程が実験的に確認された。また、(2)-(1)被捕食危険を前提としたラットの餌の運搬行動に関するモデルの妥当性を示したこと、(2)-(2)餌の運搬行動が生得的に備わった防衛反応であり危険やそれを予告する信号と遭遇する以前から生起する反応でることから、SSDR等の従来考えられてきた生得的な防衛反応とは区別されうる可能性を示したという意義もあげられる。
 継時的パターンの変化については、長期行動観察装置を用いてベースラインにおける採餌、摂水行動のパターンと活動性の分析が行われた。その結果、暗期に活動量が多く、そのパターンは、明暗を同調因子として1日周期で安定して現れる傾向にあった。電撃呈示による変化に関する観察については、同じ装置を用い、現在なお進行中である。