表題番号:1995A-297 日付:2002/02/25
研究課題鳥類胚筋原細胞の初代培養のための無血清培養液の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学部 教授 木村 一郎
研究成果概要
まず,各種動物の筋原細胞およびその他の細胞に対する無血清培養液に関して,これまで蓄積された知見をもとに,基本とすべき培養液系を検討した。一般に無血清培養液系に必須とされ,鳥類筋原細胞の培養においても必須であることが既に我々によって確認されている鳥類由来のトランスフェリン(本実験ではニワトリ卵白トランスフェリン)とすべての動物細胞の培養系において必須であるとされているインスリン(本実験ではウシ由来のもの)を基礎人工合成培養液に加えたものについて調べた。基礎人工合成培養液としてイーグル最少必須培養液,ダルベッコ変法イーグル最少必須培養液,F12培養液などについて調べた結果,ダルベッコ変法イーグル最少必須培養液が最も有効であることが判明した。ダルベッコ変法イーグル最少必須培養液を用いた場合,トランスフェリンは30ug/mlで,インスリンは10ug/mlで筋発生促進効果が飽和に達することがわかった。
上記のダルベッコ変法イーグル最少必須培養液-トランスフェリン-インスリンの系に,以前我々がニワトリ胚抽出液中の筋発生促進因子として確認し,また近年筋発生において最も重要な制御因子として知られるようになった線維芽細胞成長因子(本実験ではウシFGF-2)を添加し,その効果を調べた結果,きわめて有効であることが確認された。線維芽細胞成長因子の濃度については,濃度に依存して筋芽細胞の増殖,筋分化の促進が見られたが,コストの点も考慮して,10ng/mlの濃度を用いることにした。
さらに,動物細胞に無血清培養液に有効なものとしてしばしば用いられてきたウシ血清アルブミンを加えて,その効果を調べたところ,有効であることがわかり,その濃度依存性を調べた結果から,1mg/mlを用いることとした。
以上のような,ダルベッコ変法イーグル最少必須培養液-トランスフェリン-インスリン-線維芽細胞成長因子-血清アルブミンの培養液は,従来一般に鳥類筋原細胞の培養に用いられてきた血清を含む培養液,例えばイーグル最少必須培養液-ニワトリトランスフェリン-ウマ血清(さらにはニワトリ胚抽出液を加えたも
の)に比べると,その筋発生促進効果において未だ十分とは言えないものの,かなりの程度の筋発生を実現してくれるものであった。さらに,上記組成の無血清培養液について特筆すべきことは,筋原細胞の初代培養において莢雑を避けられない線維芽細胞の増殖が著しく抑えられることであった。
現在,細胞外基質物質の添加効果を調べているが,フィブロネクチンなどの有効性が示唆されており,さらなる改善を進めている。