表題番号:1995A-289
日付:2002/02/25
研究課題日本における統合的環境政策の現状についての調査
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 社会科学部 | 教授 | 坪郷 實 |
- 研究成果概要
- 1980年代後半から注目されるようになった地球環境問題は,産業社会のエコロジー的再構築の必要性を明らかにしている。このことは,例えば,ヨーロッパ連合やドイツにおいては,統合的環境政策,あるいはエコロジー的社会的市場経済というキー概念を通じて議論され,新しい制度の導入と政策革新が進められようとしている。この統合的環境政策は,政策統合と政策の担い手の多様性という特徴を持っている。日本においても1993年の環境基本法の成立,先駆的な都府県や自治体による環境基本条例の制定,容器包装物回収・リサイクル法の成立などにより,環境政策は新しい段階を迎えている。
さて,本研究の目的は,ヨーロッパ連合やドイツの統合的環境政策との比較の視点から,日本における統合的環境政策の現状を調査・分析することである。日本の統合的環境政策の調査・分析においては,特に,次の2点に焦点をあてた。第一は,環境基本法や環境基本条例の調査・分析によって,日本の統合的環境政策の枠組みを明らかにすることである。第二は,統合的環境政策は多次元的なものであり,多様な主体によって担われるものであるので,中央政府の動向と共に,府県や自治体レベル,企業・経済団体,労働組合や生活協同組合,環境団体の動向について調査・分析を行うことであった。
次に,今年度の調査・分析の結果について,いくつかのポイントをまとめておこう。
(1)環境基本法の成立により,環境基本計画を閣議決定することになり,環境政策と他の政策領域との調整が行われる枠組みは作られた。しかし,環境アセスメント法案や,環境税の導入など,重要な問題は今後の問題として先送りされている。
(2)先駆的な府県や自治体では国の環境基本法の成立以前から環境基本条例を制定したところもある。環境基本法成立以後も,都道府県や自治体レベルで独自に環境基本条例を採択するところも出てきている。この環境基本条例の中には,環境優先理念,環境権を規定,自治体の施策や計画づくりへの市民参加の仕組みなど,新しい発想も見られる。
(3)企業レベルでは,環境監査への取り組みが始まっている。電機業界などの輸出産業では,環境監査の国際的動向(ISO,ヨーロッパ連合のEMASなど)を見ながら,取り組み(日本環境認証機構)も行われている。ドイツでも,企業の環境問題への対応は,「新たな国際競争力」の観点からも,重要視されている。
(4)国の環境基本法の成立にあたって,市民団体・環境団体や労働組合が政府案に対して市民案を準備し,独自の市民参加のフォーラムを開催するなどの動きが見られた。(アースディ日本,労働組合総連合,世界自然保護基金日本委員会WWFJなどによって,環境フォーラムジャパンが結成)内容的に修正まで至らなかったが,法案の問題点を明らかにし,政策提案型の運動も定着してきた。容器包装物リサイクル法の成立の際にも,同様の動きがあった。
自治労とアースディ日本によっては,「環境自治体」(エコオフィス,エコ都市)が提起され,市民による自治体の「エコロジー度チェック」も実施されている。さらに,市民団体は,自治体で環境基本条例制定に取り組んでいる。労働組合では,安全衛生面からの環境問題への取り組みも行われている。
(5)さらに,今年度は,関東地区を中心に環境基本条例を作成している都府県と自治体の資料を収集すると共に,大阪府と大阪市について聞き取り調査も実施した。次年度は,都府県や自治体レベルに焦点を合わせて,引き続き調査分析を継続する予定である。