表題番号:1995A-277 日付:2002/02/25
研究課題新幹線車窓景観に及ぼす野立て広告の影響と改善方策に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 後藤 春彦
研究成果概要
本研究では対象となる景観を新幹線沿線に帯状にひろがるものとして捉え,視点場を新幹線上におき,これを「新幹線の車窓景観」と呼び,特に,新幹線沿線の「野立て広告」が新幹線の車窓景観を阻害してるひとつの要因であるという問題意識に基づき,わが国の新幹線全路線の沿線の「野立て広告」の分布,広告内容,広告主の意向,設置位置などの現状について,沿線の都府県・政令指定都市の屋外広告物条例をふまえて分析することにより新幹線の車窓景観における「野立て広告」の設置の現状と課題を明らかにした。
(1) 「新幹線車窓景観」における「野立て広告」の位置づけ
「新幹線車窓景観」は公共性の視点から論じられるが,各自治体の屋外広告物担当係に対するアンケート結果をみても,全体の約8割が「新幹線車窓景観」の保全について賛同しており,今後行政課題としての位置づけが大きくなることが予想される。沿線の都府県・政令指定都市の屋外広告物条例においても,『美観風致の維持』を目的に,まちまちではあるが「禁止地域」や「許可地域」の設置によって,「野立て広告」に対して何らかの規制がかけられており,「野立て広告」が沿線の美観風致を阻害する要素であることについては基本的に社会的コンセンサスが得られていると考えられる。一方,「野立て広告」の提出の実態は現在のところ全線で両側に1152基存在する。これは1kmあたり0.63基存在することになり,「野立て広告」が量的に「新幹線車窓景観」における典型的な要素のひとつに位置づけられることを示すものである。また,それらは都市郊外の田園地域に多く掲出され,田園景観の水平性を大きく阻害している要素にも位置づけられる。
(2) 「野立て広告」に関する地域差
「野立て広告」の掲出の地域差に着目すると掲出数,密度(グロス・ネット),集積地区などすべてにわたり関西を中心に高く,関東以北では低くなる。同様に,「野立て広告」を掲出している広告主(企業)も7割強が関西系企業によって占められており,ここでも西高東低の傾向が認められる。
(3) 行政課題としての「新幹線車窓景観」と「野立て広告」
条例による「野立て広告」の規制状況も西高東低で,東北地方においては新幹線を対象にした「野立て広告」の「許可地域」の指定はみられない。「野立て広告」の規制は原則的には地域の実情を考慮して各自治体が独自にすすめるべきものであるが,「新幹線車窓景観」を連続する一体的なシークェンス景観として捉えるならば,規制の最低基準として新幹線を特定の対象とする「禁止地域」「許可地域」が連続的に設けられることが望まれる。そして,静岡県が富士山とみかん園と茶園を対象としたように,地域の環境資源の保全活用を目的とした独自の「禁止地域」「許可地域」を上乗せすることが望まれる。同時に,一部の先進事例に見られる様に,各自治体の景観形成計画に盛り込む等「新幹線車窓景観」を行政課題として位置づけ,総合的な対策を講じる必要がある。また,新幹線沿線への「野立て広告」掲出企業のうち,上位10社で「野立て広告」全体の61%,同25社で82%を占めている現状から,広告主への適切な行政指導によって大幅に改善されることが期待される。