表題番号:1995A-274 日付:2002/02/25
研究課題GFRP積層板の応力腐食割れに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 助教授 川田 宏之
研究成果概要
GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)はその汎用性の高さから広範な分野で利用が広まっているが,強化材であるガラス繊維が腐食環境に接触し,応力腐食割れ(SCC)を起こすことが知られており,その破壊形態の解明は重要である。また,工学設計上重要と思われる,応力腐食割れにおけるき裂進展下限界応力拡大係数
(KISCC)についての報告例は少なく,また環境条件がKISCCに及ぼす影響など,解決していない課題は多い。
そこで本研究では広範な酸応力腐食環境中での本材料の破壊機構・き裂進展挙動を調査するため,切欠きを有するGFRP織物積層板の応力腐食割れ荷重漸減試験を行い,KISCCの定量化と破壊機構の解明を行う。また破壊メカニズムを基礎とした数値計算モデルを提案し,き裂進展速度の推定を行う。
応力腐食割れ試験の結果,巨視的き裂進展挙動は遷移点を有し,パリス則に沿う定常き裂進展域と,
KISCCへの漸近領域である低KI域へと大別できた。この両領域には微視的破壊機構に差異が見られ,特にKISCC近傍では荷重線方向の縦繊維周囲のマトリックスに特徴的な破面である,ポリゴナルラインが観察され,酸の拡散抵抗となっていることが分かった。これに対し定常き裂進展域においてはマトリックスは脆性的な破面を呈しており,ガラス単繊維のSCCにき裂進展挙動が依存していると考えられる。
これらの破面観察の結果から,定常き裂進展域に対してガラス単繊維の腐食モデルを基盤とした,き裂進展速度の予測モデルを提案し,その妥当性を検証するため,理論的観点から数値計算的手法を用いて巨視的き裂進展速度の予測を行った。ガラス繊維表面の初期欠陥が酸による腐食を受け,特徴的な破面であるミラーゾーンが成長し破断に至るモデルである。応力腐食割れにおける反応速度はArrheniusの式で示され,これを積分することによって繊維の破断時間を算出できる。また,これら単繊維の集合体である繊維束は楕円形状にて近似し,繊維配列を考慮することによって縦繊維束の定量的モデルがたてられる。繊維束側面に初期腐食領域を与え,腐食繊維からSCCが開始する。繊維束全体の破断時間を算出することにより,巨視的き裂進展速度が算出できる。
本モデルにより算出されたき裂進展速度は定常き裂進展域において実験値と良い一致を示し,繊維束内のき裂進展シミュレーションにより得られる縦繊維束内のき裂進展過程に関しても実験でのフラクトグラフィと一致し,本モデルの妥当性が示され,本モデルが,GFRP織物積層板のき裂進展速度予測に関して有効であると思われる。
以上より,実験的側面より詳細な破壊機構を解明し,これを基にして,き裂進展速度予測及びき裂進展シミュレーションが可能でかつ妥当性を有する数値計算モデルが提案され,この分野での新しい材料設計へのアプローチが示された。