表題番号:1995A-262 日付:2002/02/25
研究課題生理活性物質および薬の光化学:時間分解ラマン分光法による研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 高橋 博彰
研究成果概要
1. ソラーレン(Ps)およびその誘導体の8-メトキシソラーレン(8-MOP),5-メトキシソラーレン(5-MOP)の光化学反応についてレーザーフラッシュフォトリシス法,時間分解ラマン分光法およびab initio分子軌道法を用いて,ナノ秒の時間分解能で以下のことを明らかにした。
1)8-MOPの光化学は他のソラーレンとは顕著に異なっている。すなわち,アニオンラジカルの量子収率がPsや5-MOPよりもはるかに大きい。また,アセトニトリル中でカチオンラジカルも生成する。
2)水溶液中では光イオン化が起こり,カチオンラジカルと溶媒和電子を生成する。
3)アニオンラジカルと励起三重項状態ではピロン環のC=C結合は非常に弱まっている。
4)ソラーレンおよび誘導体の最低励起三重状態 3(π,π)に帰属され,励起はピロン環に強く局在している。
5)アニオンラジカルは光化学療法剤における生理活性種ではない。
2. フェノチアジン誘導体,特にクロルプロマジンは,精神安定剤として広く用いられている。この薬の光アレルギー性の機構を明らかにするために,ナノ秒の時間分解能で,フェノチアジン(PTZ),クロルフェノチアジン(CPTZ),プロマジン(PZ),クロルプロマジン(CPZ)の吸収スペクトル及びラマンスペクトルを測定し,以下のことを明らかにした。
1)カチオンラジカルは最低励起一重項状態を経由して二光子過程で生成する。
2)CPZではカチオンラジカルを経由して,過渡分子種X(吸収ピーク580nm)が生成し,Xは更に分子種Y(吸収ピーク380nm)に変化する。XとYの正体は明らかではない。PTZとPZでは生成しないことから,脱塩素反応により生じたものと思われる。
3)励起三重項状態およびカチオンラジカルでは基底状態と比べて,C-S結合の二重結合性が増しており,励起が硫黄原子付近に局在していると考えられる。