表題番号:1995A-259 日付:2002/02/25
研究課題極高真空用分圧計測の開発研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 大島 忠平
研究成果概要
10-11Pa台の極高真空の圧力を計測するための電離真空計を開発した。静電型イオン偏向器(偏向角255度)の使用により,イオン化室で発生する2種類の雑音(軟X線と電子励起離脱イオン)を除去し,10-13Paまで雑音レベルを下げることができることを示した。電子励起離脱(ESD)イオンは,この圧力領域の最大の雑音であり,この雑音の発生機構を解明することは,極高真空領域の圧力計測にとって極めて有効である。イオン偏向器内部を通過する飛行時間を計測することによって,発生するESDイオンの分子種および運動エネルギーを計測した結果以下の白金グリッドから発生するESDイオンに関する知見が得られた。
(1)真空計の動作初期には,ESDイオンとしてはH原子,O原子,CO原子であるが,動作をくり返し,イオン化室を電子で衝撃し続けると,徐々にH原子,O原子,CO原子のピーク強度が減少した。
(2)代わって,強度が大きくなるのはH2分子である。H2イオンのエネルギーはHイオンよりも数eV高い。
次に,真空容器内部に重水素を導入してESDイオンの変化を観察した。
(3)重水素の導入によって質量数2(D)と4(D2)のイオンが増加した。10-9PaのD2分圧では3-4時間後に増加は停止した。このことは,D2分子は一旦物理吸着し,安定位置を探して化学吸着すると考えられる。
(4)この実験では質量数3(HD)のイオンは検出されなかった。D2分子の多くは非解離で吸着している。
(5)重水素を排気した場合,D2ピーク位置は徐々に減少し,10時間後にもまだ観測されていた。
このことは,D2は化学吸着に相当する結合エネルギーで吸着していることを示している。