表題番号:1995A-258 日付:2002/02/25
研究課題絶縁材料中の空間電荷分布の精密計測とそれによる直流ケーブル用材料の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 大木 義路
研究成果概要
(1)ポリエーテルスルホン(PES)は,ガラス転移点である225℃までの間に,2つの熱刺激電流ピークを持ち,このうち低温側のβピークは,ポーリング温度とともにピーク温度が最高150℃まで上昇し,高温側のαピークは約210℃付近にピークを持つ。このうち,αピークについては元々試料内部に不均一な分布を持って存在していたK+イオンなどのイオンが原因であることが既にわかっている。本報告では,パルス静電応力法による空間電荷分布の測定とサーマルサンプリング法による熱刺激電流の測定を組み合わせることにより,βピークの原因となっているキャリアの推測を行った。この結果,βピークの出現に対応する形で陰極前面に見られていた多量の正電荷が減少していくことがわった。さらに,直流伝導電流は熱処理および電圧印加後の時間の経過につれて減少していく。これらの事実は,βピークや伝達に不純物イオンが関与していることをうかがわせる。また,電流値は,イオンのホッピング電流の理論式に合い,算出される電荷密度やホッピング距離は妥当な値となる。αピークの原因がイオンであることと合わせて,PESにおける主たるキャリアはイオンであると考えられる。
(2)誘電体に印加していた電圧を除去したときに流れる放電電流は通常,印加電界と逆方向に流れる。筆者らがポリメチルペンテン(PMP)の放電電流を測定したところ,高温領域(100~120℃)において,通常観測される方向とは逆の,すなわち,それまで印加されていた電界と同方向に流れる異常放電電流が生じることが見いだされた。また異常放電電流が生じる条件で,電界を印加後,パルス静電応力法によって空間電荷分布を測定した結果,電極近傍にヘテロ電荷の蓄積がみられた。そこで空間電荷自身が形成する内部電界により電荷が移動すると仮定し,観測された空間電荷分布をもとにシミュレーションをおこなったところ,正電荷と負電荷の移動度をそれぞれ,μp=2.5×10-10cm2/Vs, μn=7×10-11cm2/Vsと仮定した時に,実験結果の放電電流と近い電流波形および放電電流観測後の実測電荷分布に近い電荷分布が得られた。このポリメチルペンテンにおける異常放電電流には不純物イオンが関与していると推測される。