表題番号:1995A-257 日付:2002/02/25
研究課題ゼータ関数のq類似の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 上野 喜三雄
研究成果概要
ゼータ関数の背後には,豊かで未知な特殊関数の世界が存在する。例えば,多重ガンマ関数,多重対数関数はゼータ関数の世界から発生する。同様に,ゼータ関数のq類似の背後にも重要な特殊関数が潜んでいる。95年度特定課題の研究目的として,これら特殊関数の世界を調べることを掲げた。今年度の成果は,その特殊関数のなかでも特にガンマ関数に係わるものである。「多重ガンマ関数を多重q-ガンマ関数の視点から研究する」ことについて,大きな成果を揚げることができたのである。
すなわち,共同研究者である西沢道知(理工学研究科大学院生)が導入した多重q-ガンマ関数の古典極限(q→1-0)を考察することにより,以下の三つの事実を示すことに成功した。
(1)多重q-ガンマ関数の古典極限はVignerasが1979年に導入した多重ガンマ関数(以下,たんに多重ガンマ関数という)に一致する。
(2)(1)の結果を経由することで,z→∞における多重ガンマ関数の漸近展開(高次のStirling公式)を求めた。
(3)(1)の結果を経由することで,多重ガンマ関数のWeierstrass型無限積表示を具体的に求めることができた。これは,Riemannゼータ関数の導関数の負整数点における値を用いて書き下される。
Barnesは前世紀から今世紀初頭にかけて多重ガンマ関数の研究を行った。彼の意味での多重ガンマ関数は,Hurwitzの一般多重ゼータ関数のs=0での導関数値から定義されるものである。一方,Vignerasは1979年に,Bohr-Mollerupの定理を一般化から,多重ガンマ関数を導入した。Vignerasの多重ガンマ関数は,ある乗法的因子を除けば,Bames多重ガンマ関数の特別な場合と見なすことができるのだが,この乗法的因子を完全に決定することは難しく,これまで成功していなかった。また,その為に「高次のStirling公式」,「無限積表示」を求めることができなかった。
今年度の研究成果はこの難問題を完全に解決したのである。
BarnesあるいはVignerasの意味での多重ガンマ関数は,解析的整数論において重要な役割を果たす。また,近年の量子可積分系(量子ソリトン,QKZ方程式)の研究においても,多重ガンマ関数から高次の相反公式を通じて定義される多重サイン関数が本質的に用いられる。このように多重ガンマ関数,多重サイン関数は数学の至るところで顔を出す関数であるが,その割りには詳細な研究がなされて来なかった。今回の研究成果はこれらの特殊関数の研究に大きな影響を及ぼすのではないかと考えている。
今年度の成果は,95年11月ワルシャワで開催された国際研究会 "Quantum Groups and Quantum Spaces" において発表し,その会議録に下記の論文が掲載される予定である。
The multiple gamma funtion and its q-analogue (with Michitomo NISHIZAWA)
また,証明を詳述した下記の論文も完成しており,権威ある学術雑誌に投稿中である。
The multiple gamma functions and the multiple q-gamma functions (with Michitomo NISHIZAWA)
ポーランドにおける発表のほかにも,95年度日本数学会秋季総合分科会,九州大学整理学研究科,北海道大学数学教室のセミナーおいて講演を行った。