表題番号:1995A-255 日付:2002/02/25
研究課題生体分子モーターとその集合体における化学・力学特性の顕微画像解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学部 教授 石渡 信一
研究成果概要
我々はレーザー光ピンセット-超高感度テレビカメラ-画像処理システムからなる光学顕微鏡法を組み上げ,生体運動を担う筋タンパク質(アクチン・ミオシン)分子モーターとその集合体の力学・熱力学特性を顕微解析した。この研究を遂行するための実験系として我々は,(1)ガラス表面に適当な数密度の分子モーターを吸着させ,その上をアクチンフィラメントが滑り運動する,通常のin vitro滑り運動系と,我々独自で開発した,(2)生体中と同じフィラメント格子中にミオシン分子モーターが整然と配列しているA帯と呼ばれる高次構造体中を,1本のアクチンフィラメントが滑り運動する,人工最小筋収縮系,の2つを用いた。
得られた成果を列挙すると,(1)の実験系において,比較的高密度でガラス表面に吸着したミオシン分子モーターの個数を,正確に計測する方法を開発できた。その結果,1個のATP分解に伴って1個分の分子モーターが発生する平均の収縮力を正確に見積もることができた。その大きさは,ATP濃度に大きく依存したが,最大で約1pNであった。次に,ATP非存在下における1個のミオシン分子モーターとアクチンフィラメントの結合の破断力,負荷-伸び関係,結合の寿命の負荷依存性などを計測することができた(Nature誌 95年9月21日号に発表)。ミオシン分子には,アクチン・ATP結合部位を含む"頭部"と呼ばれる部分が2個あるが,アクチンフィラメントとの結合が1頭部結合か,2頭部結合かでその寿命に差があることが判明した。更に,(2)の実験系では,生理的環境に近い環境下で1本のアクチンフィラメントに発生する数10pNの発生力とその時間的な揺らぎを計測することができた。今後はこの実験系を用いて,筋(原)線維レベルでの高次収縮機能と1分子レベルでの素機能との間をつなぐ,分子モーター機能の協同性を明らかにする実験を行いたい。