表題番号:1995A-241 日付:2002/02/25
研究課題培養細胞の血清によるアポトーシスの機構解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育学部 教授 並木 秀男
研究成果概要
本研究の背景は以下に述べる通りである。細胞を培養する際,一般に血清を10%程度添加するのは常識となっている。これは,血清中の増殖因子の供給が主な理由であると理解されている。しかしながら血管内皮細胞や血液細胞を除くほとんど全ての細胞は血清に直接接してはいない。にもかゝわらず培養系に血清を添加するのは,同一ロットが比較的安価に入手できるからである。筆者らは培養系で血清の濃度を増やすと,50%以上で細胞の増殖が悪くなり,60%を越えると細胞死を引き起こすことを見出した。この細胞死はアポトーシスであり,血清の由来や細胞の種類に係りなく起こる。例外は,当然のことながら血管内皮細胞や血液細胞であった。更にこの細胞死はチオール分子によって救済された。
以上のことから本研究では,まず,細胞死を引き起こす本体の解明を試みた。その結果以下のことが明らかになった。
1)血清アルブミンが細胞死を誘導する要因の一つであること。しかしながら,これには血清の低分子画分の存在が必須であり,この本体は数種類のアミノ酸であった。
2)脳背髄液中には血清と同濃度のアルブミンが存在し,しかも同液は細胞死を誘導しないことから,血清中には別の因子の存在が考えられた。現在その因子の単離精製を進めており,分子量1万以上のタンパクである可能性が高い。
3)チオールにより細胞死が救済されることはすでに分かっているが,血清中には更に高分子で細胞死を救済する因子の存在が認められた。これについても現在単離精製を進めている。
今後は上記2),3)の因子の解明に加えて,本現象の細胞内伝達機序の解明を目指していくつもりである。