表題番号:1995A-196 日付:2004/11/02
研究課題量子力学における波動関数の動的振る舞いに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 山中 由也
研究成果概要
現在の実験技術の向上は,量子系の微視的な波動関数(量子状態)のかなり詳細な形に依存する現象を実験対象にすることを可能にしている。本研究では,量子力学系と場の量子論系につき,以下の波動関数(量子状態)の動的振る舞いに関する理論研究を行った。
(1)量子力学系で,粒子がポテンシャル障壁を「トンネリングするのに要する時間」(トンネリング時間)の問題は,古くから様々な物理学者によって提案されているが,いまだ決着されていない。問題の難しさは,トンネリングが純粋に量子論効果で古典的対応物がないことと,量子力学では時間変数が演算子で表せられる力学量でないことに起因する。我々はこの問題を新しい観点から論ずる方法として,Nelson流の確率過程量子化法でサンプルパスを考え,それからトンネリング時間を定義することを提案し,発表した(Physics Letters A)。
この方法を用いて,トンネリング時間が,波束の形に依存する「躊躇時間」と「相互作用時間」の和であることが明らかにされた。初期波束の大きさなどをパラメータにして,これらの時間の数値解析の結果も具体的に得られている。
(2)熱的状況にある場の量子論は,素粒子,宇宙論から物性物理に渡る広範な物理現象に関わる。当然,系の動的振る舞いも場の量子論に基づいて記述されなければならないが,非平衡系では確立された理論形式は未だ存在しない。TFD(Thermo Field Dynamics)を用いた熱的状況にある場の量子論系のこれまで行われてきた研究の一環として,空間不均一な場合の理論形式を整えた。それを自己相互作用する模型に適用し,空間勾配の低次の近似として粒子密度・エネルギー密度に対する拡散型方程式を導き,方程式に現れる諸パラメータを場の理論で計算する表式を示した。これらの結果は,熱的場の量子論の国際会議(4th International Workshop onThermal Field Theories and Their Applications, 大連)にて報告した。