表題番号:1995A-193 日付:2009/05/05
研究課題不安定原子核のベータ崩壊および質量公式の研究とその応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 橘 孝博
研究成果概要
不安定原子核の研究は古くから行われているが,最近の日本およびヨーロッパの実験的原子核研究の進展と技術の向上により対象とする不安定原子核の数は非常に多くなってきた。本研究では,不安定原子核の持つ諸性質のうち,ベータ崩壊および基底状態の質量を対象として,これまで本特定課題申請者が所属するグループが開発してきたモデルの改良等を行った。
ベータ崩壊に関しては,大局的理論を用いて研究してきた。これは,ベータ崩壊する一粒子あたりの強度関数とそれら一粒子のエネルギー密度を掛けてパウリ原理を考慮しながら積分したものとしてベータ崩壊強度関数を表現するモデルである。我々は最近,奇奇核に対してこのモデルを改良したが,その過程でこれまでの一粒子強度関数が実験値を過小評価していることがわかり,hyperbolic sec型の関数からmodified Lorentz型の関数に変えた。これにより遅発中性子放出確率の計算値が改善され,γ線との競合係数が考慮されやすくなった。また,このモデルでベータ線スペクトルの計算も行い,実験値との良好な結果を得ることができた。
原子核質量に関する研究では,Audi達により1995年に発表された評価済み質量値をシステマティクスの方法を用いてチェックした。これにより,かなり多くの原子核に対して問題があることがわかり,我々はそれらについて合理的な誤差値を評価した。一方,我々は質量公式の開発も行っている。それは,球形の一粒子ポテンシャルから決めた波動関数を用いて,原子核の殻エネルギーを求めるものである。この殻エネルギーの重ね合せで変形のエネルギーや対エネルギーも表現できるとするモデルである。この質量公式に含まれるパラメータ値を決める時の入力データとして,先ほどの再評価された質量値と誤差を用いることを予定している。
今後は,以上のモデルを天体核物理学や原子核工学の分野で応用する事を予定している。