表題番号:1995A-169 日付:2002/02/25
研究課題イタリアにおける政治学の誕生とその発展
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学部 助手 池谷 知明
研究成果概要
95年度は,ガエターノ・モスカの著作を中心に課題に取り組んだ。
イタリア政治学の誕生は,1896年のモスカの『政治学要綱』(以下『要綱』)の公刊に一致するとされる。
そこでは,科学としての政治学の樹立が宣言され,同時に,時代,場所を問わず,政府が存在する限り,その政府は組織された少数者によって運営されているという,政治階級の理論が提示されている。この政治階級の理論は,1884年に発表された『諸政府の理論と議会政治』(以下『政府論』)において明らかにされていた。
それでは,なぜ1880年代に,政治階級の理論が発表されることになったのか。この課題について,論文「ガエターノ・モスカの『政府論』における19世紀末イタリア議会政治批判」(『社会科学討究』第119号)で取り組んだが,当時の選挙過程とそこで選抜されてくる代議士階級の腐敗にたいする議会主義批判に起因することが明らかになった。選挙は国民の多数の意思が反映される場ではない。イタリアの惨状を改善していくためには,良質の政治階級を育成する必要があるというのがモスカの主張であった。このモスカの考えは,デモクラシーの全面否定につながるのだろうか。この点について,論文「ガエターノ・モスカの『政治学要綱』における『政治社会』概念と19世紀末イタリア政治社会」(『ソシオサイエンス』第2号)で主に『要綱』を中心に検討したが,モスカの力点は,単一の政治階級による政治支配ではなく,多元的な政治勢力の政治への参入であり,その競合によって,専制を阻止することにあった。したがって,モスカ理論は,多元主義的なリベラル・デモクラシーと親和性を獲得していくことが明らかになった。
モスカと同時代の政治学者についての考察,その後のイタリア政治学の発展に関しては,モスカ理論のアメリカ政治学への影響に関する問題とともに,今後の課題として残された。